朝顔 (駆逐艦)

日本海軍の駆逐艦「朝顔」は、大正時代に建造された若竹型駆逐艦の五番艦としてその歴史を刻みました。当初は「杜若」として計画され、その後「第十駆逐艦」「第十号駆逐艦」と名称を変え、昭和3年（1928年）に最終的な艦名「朝顔」となります。大正11年（1922年）に進水、翌大正12年（1923年）に竣工し、二等駆逐艦として呉鎮守府に所属しました。

就役後は姉妹艦と共に第16駆逐隊を編成し、様々な鎮守府部隊や艦隊、遣外艦隊の指揮下で活動しました。昭和12年（1937年）に日中戦争が勃発すると、第三艦隊の一員として中国沿岸の警備や厦門攻略作戦に参加。その後、所属は第32駆逐隊へと移り、太平洋戦争開戦を迎えます。

開戦時、朝顔は鎮海警備府部隊として対馬海峡で哨戒任務に就いていました。戦局が厳しさを増す中、旧式艦ながら護衛任務の重要性が高まり、朝顔もその任に就くべく改装を受けます。昭和16年末から17年初めにかけて舞鶴で行われたこの改装では、対空能力強化のため主砲の一部が撤去され25mm機銃が搭載されたほか、掃海設備が撤去されて爆雷兵装が強化されました。これにより、本格的な船団護衛艦としての態勢が整います。

改装後、朝顔は南西方面艦隊第一海上護衛隊に編入され、以後終戦まで、南方や中国方面と日本本土を結ぶ生命線であるシーレーンの護衛に奔走することとなります。門司、高雄、サンジャック、シンガポール、マニラ、パラオなど、多岐にわたる航路で数多くの船団を護衛しました。この間、護衛対象の輸送船が潜水艦や航空機の攻撃により次々と被害を受ける現場を幾度となく経験します。昭和18年9月には、護衛中の臨時B船団が米潜水艦トリガーの襲撃を受け、複数のタンカーや貨物船が沈没・損傷するという大きな被害が発生しました。

厳しい戦況の中で、朝顔自身もまた危険に晒されました。昭和19年7月には海南島三亜沖で台風に遭遇し座礁。燃料漏れを起こす損傷を負いましたが、懸命な救難作業の末、9月には離礁に成功し、応急修理を受けて護衛任務に復帰しました。しかし、その後も困難は続きます。同年12月には、護衛中のミ29船団が米潜水艦シーデビルの攻撃を受け、輸送船2隻が沈没。この時、プロ野球選手の沢村栄治が乗船していた安芸川丸も失われています。また、サンフェルナンド沖での船団護衛中には、米軍機の空襲により護衛対象の船が複数沈没・損傷し、朝顔自身も辛うじて難を逃れる状況でした。

昭和20年に入ると、日本周辺の制海権・制空権は著しく失われます。1月には高雄で米機動部隊艦載機の空襲を受け、周囲の艦船に大きな被害が出る中で朝顔は被弾を免れたものの、翌日には損傷した友軍艦艇との衝突事故により船体に穴が開く損害を受けました。その後、呉鎮守府呉防備戦隊に編入され、航路の途絶や燃料不足により外洋での活動は不可能となります。呉軍港への移動も、機雷が敷設された関門海峡を突破するという危険な任務でした。

呉に到着後、終戦までその地に留まりますが、7月末の呉空襲により損傷を負いました。そして、昭和20年8月15日の終戦を迎えます。終戦後、朝顔は母港である舞鶴への回航を命じられ呉を出港しますが、8月22日、関門海峡の六連島灯台沖で機雷に触れて大破着底。戦火を生き抜いた旧式駆逐艦は、終戦直後にその生涯を終えることとなりました。

大破着底した朝顔は、昭和22年9月に浮揚され、翌昭和23年6月にかけて解体されました。大正時代に生まれ、計98回もの船団護衛という苛烈な任務を全うした「朝顔」は、日本海軍の駆逐艦として、また困難な戦時輸送を支えた一隻として、その名を歴史に名を残しています。

もう一度検索