朝鮮紀行

『朝鮮紀行』の概要

イザベラ・バードによる『朝鮮紀行』は、1894年から1897年にかけて李氏朝鮮を訪れた経験を綴った旅行記です。この書籍は、当時の朝鮮の風俗、文化、社会情勢、政治の実態を鮮明に描写しており、歴史的な資料としての価値を持っています。バードは、自身の観察を通じて、朝鮮の現状を冷静かつ鋭く分析しています。

釜山の初印象

バードは初めて釜山に足を運んだ際、外国人居留地の周りに広がる杉林について触れました。これは、日本の豊臣秀吉軍により植林されたものであり、バードはここが過去に占領されていたことを認識しました。旧市街は近代化の試みが見られるものの、通りは狭く、清潔感には欠けていました。彼女は、これが朝鮮における一般的な都市景観であることを後に知ることになります。

ソウルの悪臭

バードは、ソウルの街並みも厳しく批評しました。儒教の影響により手工業が衰退し、美術工芸も失われている状況を指摘します。特に1894年当時のソウルは、その狭い道と悪臭に満ちた環境から「最も不潔な町」と評されました。彼女は、自身が目にした他の都市と比較するまで、ソウルの衛生状態が最悪であることを認識していませんでした。また、道や橋は少なく、流れる水路も汚れた水が漂う状態でした。

日清戦争後の改善

ただし、1897年以降はソウル市内の環境改善が進んでいることも報告されました。市長の李采淵らによる努力で、以前の不潔さは急速に改善され、彼女が訪れた当初の様子がほとんど失われていることが驚きでした。この改善は朝鮮の特性に従ったもので、西洋化が進んだわけではないと述べています。

乙未事変の影響

1895年に発生した乙未事変に際しては、バードは閔妃に愛着を抱くあまり、漢城に乗り込むことになります。彼女は事件の詳細を記録し、日本公使館の関与を指摘しました。このような記録は、その後の議論や歴史認識に影響を与えることとなります。

朝鮮人の状況

バードは、ロシアの影響下にある沿海州の朝鮮人との比較を通じて、朝鮮半島に生きる人々の状況についても見解を変えていきました。彼は、朝鮮人の社会的地位が低く、貧困と腐敗の中で暮らしている状況を観察し、他国の統治が改善へつながる可能性に言及します。

農業と宗教の現状

朝鮮の農業に関しては、無駄が多く効率的ではないとし、特異な牛の屠殺方法を紹介しました。また、宗教に関しては、都市には寺院も聖職者も見られず、朝鮮の仏教は非常に衰退している実態を伝えています。国民の信仰心や教育レベルの低さを指摘し、朝鮮の宗教事情について悲観的な見解を示しました。

教育と男女観

教育に関しては、文人階級の子弟しか通えない私塾が存在し、女性は厳しく制限されている状況を描写しました。男尊女卑が根強く、女性は家に閉じ込められ、社会的役割があまりにも制限されている現象に驚かされています。教育を受けられるのは不幸にも妓生のみであり、それ以外の女性は教育機会に恵まれていませんでした。

まとめ

『朝鮮紀行』は、バードにより描かれた李氏朝鮮の実態を知るための貴重な文献であり、当時の朝鮮の日常や文化、政治的背景を理解する手助けとなります。彼女の観察眼は鋭く、現在の視点から見ても多くの示唆を与える内容となているのです。

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