妓生

妓生（キーセン）とは

妓生（きしょう/キーセン、기생）とは、朝鮮半島に存在した芸妓のことです。元々は李氏朝鮮時代以前に、外国からの使者や高官をもてなすために準備された奴婢身分の女性を指しました。歌舞音曲や宴席での接待、時には性的奉仕も行い、高麗時代から李氏朝鮮末期まで、約1000年にわたり存在しました。

甲午改革により法的には廃止されましたが、その後も「キーセンハウス」といった私娼宿の呼称として残り、その名残は現代にも見られます。

妓生の起源

妓生の起源には諸説あり、定かではありません。

巫女の遊女化説: 新羅時代の巫女が遊女化したという説
百済遺民説: 百済の遺民の女性に歌舞を習わせたのが始まりという説
中国の妓女制度の影響説: 中国の妓女制度が朝鮮に伝わったとする説

高麗時代の妓生制

高麗時代 (918年-1392年) に中国の妓女制度が伝わり、朝鮮独自の妓生制度が確立しました。政府直属の掌学院を設立し、官妓を登録・管理し、歌舞や医療などの技芸を習得させました。

李氏朝鮮の妓生

李氏朝鮮時代になると、妓生は宮中での医療や衣服の縫製も行うようになり、薬房妓生、尚房妓生といった名称も生まれました。官妓が大部分でしたが、没落した両班の娘などが妓生になることもありました。妓生は両班を相手にすることが多かったため、歌舞音曲だけでなく、学問や詩歌、鍼灸などにも通じている必要がありました。

妓生制の変遷と論争

1392年に李氏朝鮮が成立すると、早くも妓生廃止論が起こりましたが、官吏による一般家庭の女性への性的搾取を危惧する声もあり、存続しました。政府は妓生庁を設置し、妓生学校を設立するなど、制度を維持・発展させました。

燕山君と妓生

李氏朝鮮の燕山君は、妓生を寵愛し、後宮に多くの妓生を抱え込みました。全国から美女を強制的に集め、妓生を育成し、享楽に耽りました。この時代は妓生の全盛期とも言えますが、風紀の乱れも深刻でした。

妓生と外交

妓生は外交の場でも利用され、中国への貢女として送られることもありました。李朝時代には、中国からの使臣をもてなすために妓生が用いられ、その外交的有用性が認められていました。日本人に対しても同様のことが行われていた記録も残っています。

妓生の身分

妓生の身分は、官婢という賤民でした。奴婢は売買や略奪の対象となり、人権は認められていませんでした。官婢としての妓生も、同様の境遇に置かれていました。

妓生の種類

妓生には、一牌、二牌、三牌といったランクが存在しました。

一牌 (イルペ): 最も位の高い妓生で、宮中に出仕し、歌舞や医術などを披露しました。貞節を重んじ、身体を売ることはないとされていましたが、実際には特定の有力者に囲い込まれることもありました。
二牌 (イペ): 隠れて売春を行う妓生を指し、一牌妓生崩れがなることが多かったようです。
三牌 (サムペ): 完全に娼婦として扱われ、雑歌を歌って客をもてなしました。

その他にも、花娘遊女、女社堂牌、色酒家など、様々な形態の遊女が存在しました。

近代以降の妓生

1876年の開国以降、日本式の遊廓が朝鮮半島に進出し、妓生制度にも変化が見られるようになりました。日本統治時代には、公娼制度に組み込まれ、管理・統制されるようになりました。

日本統治下の公娼制

1910年の韓国併合以降、朝鮮全土で公娼制が実施され、日本人・朝鮮人娼妓ともに年齢制限が設けられました。これにより、従来の妓生制度は崩壊し、公娼制度へと移行していきました。

大韓民国成立後の妓生

大韓民国成立後、朝鮮戦争を経て、経済復興のために「キーセン観光」が推進されました。日本からの観光客を誘致し、外貨獲得の手段として利用されました。

外国人キーセン

1980年代以降、韓国経済が成長すると、キーセンのなり手が減少し、東南アジアやロシアなどから女性を誘致するようになりました。しかし、外国人娼婦に対する違法行為が問題化し、2004年に売春行為が違法化され、妓生は事実上廃止されました。

妓生と公娼に関する議論

妓生から日本による公娼制への移行過程については、慰安婦問題と関連して議論されています。妓生制度は売買春を制度化する公娼制度とは異なるという意見もあれば、支配・従属の構造は本質的に同一であるという意見もあります。

高名な妓生

妓生の中には、詩や絵画で才能を発揮し、名を残した者もいます。

黄真伊（ファン・ジニ）
論介（ノンゲ）

妓生に関する作品

春香伝をはじめ、妓生を題材とした小説や映画、ドラマなどが数多く制作されています。

春香伝
ファン・ジニ
芙蓉閣の女たち〜新妓生伝

参考文献

『朝鮮紀行』イザベラ・バード
『朝鮮風俗集』今村鞆
『朝鮮解語花史』李能和

関連項目

慰安婦
喜び組
* 買春ツアー

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