木下惠介記念館

静岡県浜松市中央区に位置する木下惠介記念館は、国際的に高い評価を受ける映画監督、木下惠介の功績をたたえ、後世に伝えるために設けられた施設です。浜松市出身である木下監督にちなみ、彼の故郷に誕生しました。この記念館は、歴史ある「旧浜松銀行協会」の建物を活用しており、建物自体もまた浜松市の指定有形文化財として価値が認められています。

旧浜松銀行協会の建物は、1930年（昭和5年）に「浜松銀行集会所」として竣工しました。設計を手がけたのは、同じく浜松出身の建築家・教育者である中村與資平です。彼の欧米での経験が活かされたこの建物は、白い壁に半円アーチ窓、ロンバルディアバンド、濃緑のスペイン瓦など、地中海沿岸を思わせるスペイン風のデザインが特徴です。鉄筋コンクリート造りの2階建てで、玄関部には幾何学模様のステンドグラス、床には浜辺の波と松並木を表現したモザイクタイルが施されています。建物の左右で屋根の高さが異なるユニークな外観は、内部の講堂の天井高を確保するための工夫であり、瑠璃色の瓦や連続するアーチによって全体のバランスが図られています。前庭にはシュロやソテツといった南国風の植栽が見られます。

建物は1946年に浜松銀行協会と改称され、1998年には国の登録有形文化財となりましたが、2009年の浜松市指定有形文化財への指定に伴い国の登録は抹消されました。銀行協会としての業務は2004年に終了しました。

木下惠介記念館としての歩みは、2001年7月1日、市制90周年を記念して浜松文芸館の分館として始まりました。当初は官民複合ビル・フォルテ内に開館し、遺族から寄贈された約3,600点に及ぶ遺品が収蔵されましたが、展示スペースの制約などから全てを公開することはできませんでした。開館から半年で7,500人を超える来場者があり、特に70歳以上の無料来場者が多くを占めました。フォルテの閉館計画に伴い、2008年に一時休館。そして、2009年12月5日に現在の旧浜松銀行協会へと移転し、リニューアルオープンを果たしました。2010年には公式ウェブサイトを開設し、情報発信にも力を入れています。

館内は、木下監督の世界に触れることができる様々な展示で構成されています。1階の第一展示室には、木下監督の書斎が再現されており、愛読書などが並びます。第二展示室では、監督の生い立ちから映画作品に至るまでの軌跡をたどることができます。作品ポスターや受賞トロフィー、直筆の台本、撮影風景や家族との写真などが展示され、監督のルーツや創作活動の一端を知ることができます。また、この建物の設計者である中村與資平に焦点を当てた資料室も併設されており、建築への関心も満たされます。

2階のアートホールでは、木下惠介監督の生涯にわたる全49作品の中から毎月1作品を選び、定期的な上映会が開催されています。これは、映画ファンにとって監督の作品世界を大スクリーンで堪能できる貴重な機会となっています。その他、2階のギャラリースペースは一般への貸し出しも行われ、多目的な文化活動に利用されています。

記念館に関連するイベントとしては、「はままつ映画祭」があります。2002年から始まり、木下惠介監督を顕彰する目的で企画されるこの映画祭では、毎年ゲストを招いたトーク企画なども実施されており、過去には斎藤明美氏や原恵一氏らが登場しました。

木下惠介記念館は、JR浜松駅または遠州鉄道新浜松駅から徒歩約12分、または遠鉄バス「鴨江アートセンター」停留所下車すぐの場所にあります。開館時間は午前9時から午後5時で、月曜日、祝日の翌日、年末年始は休館日となっています。記念館の向かい側には、かつて浜松警察署として使われていた歴史的建造物、鴨江アートセンターがあり、合わせて訪れることも可能です。

映画監督・木下惠介の偉業と、歴史的建造物である旧浜松銀行協会の魅力を同時に体験できる木下惠介記念館は、浜松市の文化と歴史を感じられる貴重なスポットです。

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