鴨江アートセンター

浜松市鴨江アートセンター

浜松市中央区鴨江町に位置する浜松市鴨江アートセンターは、地域の文化芸術活動を支える重要な施設です。この建物は、元々1928年（昭和3年）に浜松警察署の庁舎として建設された歴史ある建造物を利用しています。

警察署としての始まり

現在の鴨江町の地に警察署が移転する前、浜松警察署は1880年（明治13年）から伝馬町の木造二階建て庁舎を使用していました。手狭になったことなどを理由に、1926年（大正15年）に新しい庁舎の建設地が検討され、市民の反対意見も考慮された結果、現在の鴨江町への建設が市議会で決定しました。この移転にあたっては、浜松市が敷地提供や建設費用の一部を負担しています。新しい建物は、伝馬町時代の木造建築とは異なり、鉄筋コンクリート造りの三階建てでした。建設当初は警察機能に加え、消防の本部も同じ建物内に置かれており、屋上には高い望楼が設けられていました。外壁には日華石と呼ばれるタイルが貼られていたことが当時の記録に残されています。

組織改編と庁舎の変遷

第二次世界大戦後、日本の警察・消防制度は大きく変化しました。1948年（昭和23年）には自治体警察（浜松市警察）と自治体消防（浜松市消防）が独立。さらに1954年（昭和29年）の警察法改正により自治体警察は廃止され、静岡県全体を管轄する静岡県警察本部が誕生します。これに伴い、当建物は浜松中央警察署として位置づけられることとなりました。消防本部は1955年（昭和30年）に別の場所へ移転。警察署機能も、手狭化や建物の老朽化が進んだため、1971年（昭和46年）に下池川町に建設された新庁舎へ移転しました。これにより、当建物の警察署としての長い役割は終了しました。建物の所有権は、1972年（昭和47年）に静岡県から浜松市に移管されています。

社会福祉会館、鴨江別館を経て

警察署の移転後、建物は新たな用途で活用されることになります。1974年（昭和49年）には大規模な改修工事が行われ、外壁のタイルが大半剥がされてモルタル仕上げになるなど外観が大きく変わりました。この改修を経て、浜松市社会福祉会館として利用が始まりました。その後、1984年（昭和59年）には音楽練習などにも対応できる改修が施され、浜松市鴨江別館と改称。音楽団体の練習場や貸し会議室として多くの市民に利用されてきました。

解体危機と市民による保存運動

歴史を刻んできた建物ですが、老朽化による課題も生じました。1998年（平成10年）には望楼の壁の一部が剥がれ落ち、翌年の耐震診断では大規模な補強が必要と判定されました。この結果を受け、2001年（平成13年）には安全性の問題から望楼部分が撤去され、建物本体も耐震性能の見直しなどから一時解体の方針が決定されました。しかし、この方針に対し、建物の歴史的価値や地域への貢献を重んじる市民による強い保存運動が起こりました。2008年（平成20年）、建築士会などからも建物の保存・再生案が提出されたことを受け、浜松市は方針を転換。耐震補強工事を行った上で建物を保存・活用することを決定しました。総工費約2億4千万円を投じた耐震改修工事は2010年（平成22年）に完了しました。

アートセンターとしての再生

大規模な改修と耐震工事を経て生まれ変わった建物は、2013年（平成25年）11月、浜松市鴨江アートセンターとして新たなスタートを切りました。文化芸術活動の振興を目指し、若手芸術家への制作場所提供などを行うアーティスト・イン・レジデンス事業を含む様々なプログラムが実施されています。施設の運営は、公募により選定された指定管理者によって行われ、浜松の文化芸術拠点として活発に利用されています。

建物の特徴

当建物は、近世復興式と呼ばれる様式を取り入れた鉄筋コンクリート造りです。特に正面玄関は特徴的で、太い角形の礎石の上に短い円柱が載り、それを支えとして重厚な石造りの三連アーチが構成されています。建設当初の外壁は日華石タイルでしたが、1974年の改修でモルタル仕上げに変更されており、窓枠なども更新されています。望楼は先に述べたように撤去されていますが、建物全体からは建設当時の堅牢な雰囲気が今も感じられます。

戦禍や震災を乗り越え、一度は解体の危機に瀕しながらも市民の力によって守られたこの歴史的建造物は、現在、浜松の文化芸術活動を育む場として重要な役割を担っています。

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