木下茂 (貿易商)

木下茂：鉄鋼商社を築き上げた実業家

木下茂（きのした しげる、1899年 - 1967年）は、京都府綾部市出身の実業家であり、貿易商として名を馳せました。岩井商店（後の双日）での勤務経験を活かし、独立して木下商店を創業。同社を国内有数の鉄鉱石輸入商社へと成長させました。

生い立ちと岩井商店での経験

1899年（明治32年）5月11日、士族・木下運一郎と久美の長男として生まれた木下茂。木下家は山家藩藩主・谷家の一門という家柄でした。幼少期に両親が離縁し、母の再婚により、伯母の家で養育されることとなります。1913年（大正2年）に小学校高等科を卒業後、伯父から進学を勧められますが、一日も早く社会に出て働きたいという思いから、この申し出を断りました。

翌1914年（大正3年）、母方の伯父である安野譲を頼り大阪へ。岩井商店の見習社員として社会人としての第一歩を踏み出します。小樽の出張所などで経験を積んだ後、1920年（大正9年）には系列会社の大阪鉄板へ出向。1922年（大正11年）に父が亡くなった際には、弔問に訪れ、高額な香典を包んだというエピソードも残っています。

木下商店の創業と発展

1928年（昭和3年）に村山トヨと結婚するも、3年後に妻を病で亡くすという悲劇に見舞われます。その後、1932年（昭和7年）に岩井商店を退職し、社員2名と共に鉄鋼問屋「木下商店」を設立。京橋区木挽町に事務所を構え、新たなスタートを切りました。同年には梅岡千代子と再婚しています。

岩井商店時代に培った人脈を活かし、木下商店の事業は徐々に軌道に乗ります。1934年（昭和9年）には株式会社に改組し、京橋区宝町に社屋を構えました。その後、札幌、大阪、八幡に支店を開設。1952年（昭和27年）にはアメリカ法人である米国木下商店を設立し、自ら社長を兼任するなど、グローバルな事業展開を進めました。

木下商店は、政府との太いパイプを持っていたとされ、戦後賠償の一環として日本からインドネシアに提供される船舶の取り扱いに関わることで、大きな利益を得たとされています。

贈賄疑惑と三井物産への吸収

1959年（昭和34年）には、上記船舶取り扱いに関する贈賄疑惑が浮上し、大きな問題となりました。この事件を受け、翌1960年には組織を再編し、鉄鋼部門を中心に木下産商を新設。しかし、1965年には三井物産に吸収合併されることとなります。

その他の活動と晩年

木下茂は、経団連評議員、日本船舶輸出組合理事、日本鉄鋼製品倶楽部理事長、東洋農礦器及び東洋製線社長、日邦汽船会長など、数多くの要職を歴任しました。1967年（昭和42年）9月9日、その生涯を閉じました。

家族

母方の伯父である安野譲は、岩井財閥の大番頭として活躍し、関西ペイントの初代社長などを務めました。また、曾祖父である東条義門は、小浜の妙玄寺住職であり国学者として、動詞・形容詞の活用を現在知られる形にまとめるなど、学問の世界でも功績を残しています。

木下茂は、激動の時代を生き抜き、鉄鋼商社を一代で築き上げた傑物でした。

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