木村定跡

木村定跡：完成された先手必勝の定跡とその歴史

木村定跡は、将棋界のレジェンド、初代実力制名人・木村義雄が開発した角換わり定跡です。特に、先後同型となる腰掛け銀の戦型において、その完成度の高さから、長らく先手必勝の定跡として知られてきました。本稿では、木村定跡の手順、問題点、そして現代将棋におけるその位置づけについて解説します。

木村定跡の手順

木村定跡は、▲7六歩から始まり、角換わりへと進んでいきます。以下は、代表的な手順の一例です。

1. ▲7六歩 △8四歩
2. ▲2六歩 △3二金
3. ▲7八金 △8五歩
4. ▲7七角 △3四歩
5. ▲8八銀 △7七角成
6. ▲同銀 △4二銀
7. ▲3八銀 △7二銀
8. ▲4六歩 △6四歩
9. ▲4七銀 △6三銀
10. ▲6六歩 △5二金
11. ▲5八金 △4一玉
12. ▲6八玉 △5四銀
13. ▲5六銀 △3一玉
14. ▲7九玉 △1四歩
15. ▲1六歩 △9四歩
16. ▲9六歩 △7四歩
17. ▲3六歩 △4四歩
18. ▲3七桂 △7三桂
19. ▲2五歩 △3三銀 (図2)

図2の局面から、▲8八玉△2二玉(図1)と進み、先手が▲4五歩と突き捨て、戦端を開きます。この▲4五歩の突き捨てが、木村定跡の核心です。

その後、先手は▲3五歩と仕掛け、激しい攻め合いとなります。代表的な手順では、図4の局面で先手が優勢となり、後手は勝利が困難となります。

木村定跡の巧妙さ

木村定跡の巧妙さは、▲7五歩の突き捨てにあります。この手によって、後手は▲1五歩の突き捨てに対応できず、2筋の歩交換も先手の計画通りに進んでしまいます。さらに、3筋の歩を制圧することで、先手の攻めを容易にします。▲3三桂成とするのも、飛車先を通す好手で、先手の優勢を確実なものにします。

木村定跡の問題点とその後

木村定跡は、図1の局面に至ると、後手の敗北がほぼ決定づけられます。そのため、後手はこれを回避する必要があります。しかし、△2二玉と囲うのが敗着であるため、後手は別の戦略を採る必要がありました。後手から仕掛けを行う試みも考案されましたが、後手の玉の位置が3一にあるため、飛車を捨てるといつでも王手が掛かるというリスクを伴います。

これらの問題点から、公式戦で木村定跡を見かけることはほとんどなくなりました。升田幸三流や富岡流などの新たな戦法の登場により、角換わり腰掛け銀は形を変えながら現在も指され続けていますが、先後同型の局面に達する前に変化するケースがほとんどです。

現代将棋における木村定跡の位置づけ

木村定跡は、将棋史において重要な定跡として位置付けられます。その完成度の高さは、多くの棋士に影響を与え、角換わり腰掛け銀の研究を大きく進展させました。しかし、後手の対応策の発展や、新たな戦法の登場により、現在では公式戦で見かけることは稀です。それでも、将棋史におけるその功績は、依然として高く評価されています。 木村定跡は、もはや公式戦で用いられることは少ないものの、将棋戦略における一つの到達点として、その歴史的意義は色褪せることがありません。


参考文献
『新版 角換わり腰掛け銀研究』 ISBN 4839900663

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