木村錦花

木村錦花：歌舞伎界を支えた多才な人物

木村錦花（きむら きんか、1877年5月17日 - 1960年8月19日）は、明治から昭和にかけて、歌舞伎狂言作者、歌舞伎研究家、そして松竹の役員として、日本の演劇界に多大な貢献をした人物です。本名を金之助といい、東京の牛込岩戸町（現在の新宿区岩戸町）に生まれ、新富町（現在の中央区新富）で育ちました。

生い立ちと初期の活動

錦花の父は、初代市川左団次一座の役者でした。幼少期の錦花も『市川高之助』の名で子役として舞台に立ちましたが、その後、文筆の道へと進みました。1908年（明治41年）には、年長の友人であった岡鬼太郎と共に二代目市川左団次の明治座に入り、興行主任を務めます。1912年には、左団次が明治座を離れて松竹合名社専属となると、錦花も松竹に移籍しました。

結婚と家族

1919年（大正8年）には、劇作家の木村富子と結婚。二人の間には、後に五代目沢村源之助となる息子が誕生しました。この結婚は、錦花の人生における大きな転換点の一つとなりました。

松竹での活躍

1920年、錦花は松竹映画の第一号作品『島の女』を監督・製作しました。これは、映画界における彼の才能を示すものでした。関東大震災後の1925年には、再建開場した歌舞伎座で幕内部長・立作者代理となり、劇場の運営にも携わりました。1928年には松竹の取締役に就任し、経営面でも手腕を発揮しました。

錦花は、生涯で60を超える台本を執筆しました。また、『明治座物語』、『近世劇壇史歌舞伎座篇』、『守田勘弥近世劇壇変遷史』といった劇壇史の研究にも力を注ぎ、演劇史における重要な資料を後世に残しました。さらに、1936年から1940年まで、演劇誌『中央演劇』を主宰し、演劇界の発展に貢献しました。

戦後と晩年

太平洋戦争末期の1944年には、妻富子を亡くしました。戦後、松竹を退社した後は、かつら店を経営。また、舞台美術連盟の会長を務めるなど、晩年まで精力的に活動を続けました。1960年に83歳で亡くなり、東京都品川区南品川四丁目の天龍寺に、愛妻富子と共に眠っています。

主な業績

錦花は、数多くの歌舞伎の台本を執筆し、初演された作品には以下のようなものがあります。

『心中二駕籠』（1923年）
『研辰の討たれ』（1925年）
『稽古中の研辰』（1926年）
『恋の研辰』（1927年）
『春から冬まで』（1928年）
『びっくり宿屋』（1928年）
『東海道中膝栗毛』（1928年）
『国定忠治の遺児』（1929年）
『十三歳の頼朝』（1929年）
『木曽街道膝栗毛』（1929年）
『赤穂義士快挙録』（1929年）
『其時の赤穂城』（1930年）
『九州道中膝栗毛』（1930年）
『笹川一家』（1930年）
『ちぎり伊勢屋』（1930年）
『蝙蝠の安さん』（1931年）
『奥州膝栗毛』（1932年）
『続奥州膝栗毛』（1932年）
『金比羅道中膝栗毛』（1933年）
『石川五右衛門』（1933年）
『出雲道中膝栗毛』（1934年）
『森の石松道中記』（1936年）
『続 森の石松道中記』（1936年）
『弥次喜多日記帳』（1937年）

著書

また、以下の著書を執筆し、演劇研究に貢献しました。

『一夜夫婦』（1903年）
遠藤為春と共著：『助六由縁江戸桜の型』（1925年）
『明治座物語』（1928年）
『日本戯曲全集現代篇第39輯』（1929年）（『研辰の討たれ』『稽古中の研辰』『恋の研辰』を収録）
『近世劇壇史歌舞伎座篇』（1936年）
『三角の雪』（1937年）
『灰皿の煙 附・作者辞典』（1938年）
『守田勘弥近世劇壇変遷史』（1943年）
『歌舞伎経済史』（1948年）
『興行師の世界』（1957年）


木村錦花は、歌舞伎の発展に大きく貢献しただけでなく、その生涯を通じて演劇界を支え続けた、まさに多才な人物でした。

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