岡鬼太郎

岡鬼太郎（おか おにたろう、1872年9月3日 - 1943年10月29日）は、明治から昭和初期にかけて活躍した、日本の劇評家、歌舞伎作家、演出家、そして著述家です。本名は嘉太郎（よしたろう）、号を鬼吟（きぎん）と称しました。

東京に生まれ、旧佐賀藩士の父、岡嘉知のもとで育ちました。東京府尋常中学を経て慶應義塾大学を卒業後、時事新報、報知新聞といった新聞社に記者として入社します。鬼太郎の名で、歌舞伎に関する辛辣ながらも鋭い劇評を執筆し、高い評価を得ました。この頃より、岡本綺堂らとの交流を通して、花柳小説や戯曲の創作にも取り組み始めます。二六新報など、複数の新聞社を渡り歩きながらジャーナリストとしての経験を積みました。

1908年、新聞記者を辞職すると、永井荷風と共に、二代目市川左團次の演劇革新運動に参加。批評家としての活動に加え、本格的に戯曲の創作に専念します。その辛口で知的な批評は高い人気を集め、『鬼言冗語』を始めとする多くの歌舞伎関連の評論や随筆を発表しました。

1912年には松竹に入社。同社で手掛けた歌舞伎作品『今様薩摩歌』は、現在でも上演される代表作として知られています。歌舞伎作品以外にも、数多くの新作落語の創作にも取り組み、中でも三代目柳家小さんによって演じられた「意地くらべ」は、古典落語として語り継がれています。

鬼太郎の創作活動は多岐に渡り、戯曲、小説、随筆、評論と、その才能は演劇分野にとどまりませんでした。歌舞伎の脚本のみならず、演出にも携わり、日本の演劇界に多大な貢献を果たしました。

1943年10月29日、東京都大森区田園調布の自宅にて、胃潰瘍のため72歳で死去しました。告別式は自宅で行われました。

鬼太郎には洋画家の岡鹿之助、美術史家の岡畏三郎という二人の息子がいました。

主な著書には、『義太夫秘訣』（1903年）、『軍人の家庭』（1904年）、『昼夜帯』（1906年）、『二筋道 花柳巷談』（1906年）、『春色輪屋なぎ』（1907年）、『三筋の綾 花柳風俗』（1907年）、『もやひかさ』（1907年）、『合三味線』（1912年）、『江戸紫』（1912年）、『花柳演芸紅筆草紙』（1913年）、『あつま唄』（1918年）、『世話狂言集』（1921年）、『世話時代狂言集』（1923年）、『鬼太郎脚本集』（1926年）、『鬼言冗語』（1935年）、『春の雪 ラジオ・ドラマ集』（1938年）、『岡鬼太郎集』（1943年）、『歌舞伎と文楽』（1943年）、『歌舞伎眼鏡』（1943年）、『柳巷綺談』（1971年）、『岡鬼太郎花柳文芸名作選』（1980年）などがあります。

主な歌舞伎作品としては、『尾上伊太八』（1918年）、『今様薩摩歌』（1920年）、『深与三玉兎横櫛』（1922年）、『眠駱駝物語』（通称：らくだ、1928年）などが挙げられます。『今様薩摩歌』は、現在でも上演されており、彼の代表作として高い評価を受けています。『らくだ』は、榎本滋民演出版が平成以降も再演され続けており、四代目片岡亀蔵の当たり役としても有名です。

岡鬼太郎は、批評家、作家、演出家として、多方面で活躍し、日本の演劇文化に多大なる貢献をした人物と言えるでしょう。彼の作品は、現在でも高い評価を受けており、その功績は後世に長く伝えられています。

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