木村隼人 (ボクサー)

木村隼人

木村隼人は、1989年6月23日に神奈川県川崎市で生まれた元プロボクサーです。特筆すべきは、日本人として初めて韓国のナショナルタイトルを獲得した稀有なキャリアを持つ点です。また、WBOアジア太平洋スーパーフライ級暫定王座、そして日本バンタム級暫定王座にも輝いています。現役時代は横浜さくらボクシングジムに所属していましたが、ライセンス上は韓国のビッグスタージムを経て、後にワタナベボクシングジムに移籍しました。

ボクシングとの出会いと異国での第一歩

ボクシングは、父・木村幸広氏から受け継いだ道でした。父もまた元ボクサーであり、京浜川崎ジムで横浜さくらジム会長の平野敏夫氏に指導を受け、日本ジュニアフェザー級のランカーとして活躍した経験を持ちます。

隼人は川崎市立京町中学校の2年生からボクシングを始め、卒業後の15歳という若さでボクシングの本場の一つであるタイへと渡りました。当時の日本ではプロテスト受験資格が17歳以上でしたが、タイでは15歳から可能だったためです。タイでは「ハヤト・チュワタナ(Hayato Chuwatana)」というリングネームでプロデビューを飾り、4戦全勝（3KO）という成績を収め、タイ国内フライ級で4位にランクインするなど、順調なスタートを切りました。

韓国での飛躍：日本人初の快挙

17歳になった2006年6月に帰国。タイでの実績を考慮され、B級ライセンスのプロテストを受験しましたが、残念ながら不合格となります。しかし、所属ジムはこの結果に納得せず、海外での活動継続を選択。翌2007年3月24日、韓国のビッグスタージム所属という扱いで、韓国プロボクシング協会のB級プロテストに合格します。そして、韓国のリングでプロとして再始動。

韓国では「柳準人（ユ・ジュニン、Joon in You）」のリングネームを使用し、2007年6月16日には後の韓国フライ級王者となる鄭眞綺に3回KO勝利を収め、韓国スーパーフライ級ランキングで3位に浮上します。同年9月12日には、後楽園ホールで清水慎吾との一戦で日本国内でのデビュー戦を行い、判定勝ちで白星を飾りました。

そして2007年12月6日、韓国江原道で行われた空位となっていた韓国スーパーフライ級王座決定戦に臨み、孫京辰を大差の判定で破り、見事王座を獲得。18歳5ヶ月での戴冠は、日本人として初めて韓国のナショナルタイトルを手にするという歴史的な快挙でした（日本国内タイトル最年少記録は井岡弘樹の18歳6ヶ月）。この勝利により、OPBF東洋太平洋ランキングでも7位にランクイン。

韓国王者として、2008年3月22日には趙容起を4回KOで退け、初防衛に成功します。同年10月11日には、韓国でのWBOアジア太平洋スーパーフライ級暫定王座決定戦に出場。この試合からリングネームを「big yoo」と改め、リトル・ローズマンを3回KOで下し、暫定王座を奪取しました。その後、韓国王座は返上しています。

海外での豊富な経験を積む一方、日本国内でも試合を重ねました。2009年4月27日には韓国バンタム級王座決定戦に挑みますが、プロ初黒星を喫します。その後も韓国と日本を行き来しながら試合を続け、2009年12月にはフジテレビのドキュメンタリー番組「NONFIX」で特集され、その独自のキャリアが注目を集めました。

日本での新たな挑戦、そしてタイトル獲得

2010年にはフィリピンの強豪、アレックス・ジョン・バナルとのWBOアジア太平洋バンタム級王座決定戦に挑みますが、KO負けを喫し、初のKO負けとタイトル獲得失敗を経験します。さらに日本国内でもモービル・マーチンに敗れ、国内初黒星と初の連敗を喫しました。

日本のジム所属のボクサーは当時、JBC未公認であったIBFやWBOの世界王座への挑戦が認められていませんでしたが、木村はライセンス上韓国のジム所属であったため、これらの王座への挑戦が可能でした。この点は、彼のキャリアにおける大きな特色の一つです。

その後、試合から遠ざかる時期もありましたが、2013年5月にワタナベボクシングジムへ移籍し、日本を主戦場とします。階級をスーパーフライ級からバンタム級、再びスーパーフライ級へと変更を繰り返しながら、日本国内のトップ戦線で戦い続けました。2014年にはスーパーフライ級のA級トーナメントで優勝。

しかし、日本スーパーフライ級王者・石田匠や、空位の日本王座を争った中川健太、OPBF東洋太平洋スーパーフライ級王者レネ・ダッケルといったタイトルホルダーへの挑戦はいずれも判定負けに終わり、王座獲得はなりませんでした。

日本バンタム級暫定王者へ、そして引退

キャリア後期の2018年12月20日、階級をバンタム級に戻し、負傷で休養していた日本バンタム級正規王者・齊藤裕太に伴い設けられた暫定王座を懸け、同級6位の高野誠三と対戦。8回TKO勝利を収め、自身3本目となる主要タイトル、日本バンタム級暫定王座を獲得しました。

翌2019年4月18日、正規王者・齊藤裕太との王座統一戦に臨みますが、5回TKO負けを喫し、王座統一は叶いませんでした。この試合がキャリア最後の試合となり、2019年5月16日、自身のブログで現役引退を表明しました。

プロ戦績は39戦28勝（19KO）11敗。タイ、韓国、日本と国境を越えて戦い、複数のタイトルを獲得したそのキャリアは、日本のボクシング界においても非常にユニークな足跡を残しました。

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