木版印刷

木版印刷：東アジアの出版文化を支えた技術

木版印刷は、古くから東アジアを中心に発展してきた印刷技術です。木製の版に文字や絵を彫り込み、墨や絵の具を付けて紙に転写する凸版印刷の一種で、活版印刷と対比して「整版」と呼ばれることもあります。版木は堅牢で、適切な保存と管理によって、何世紀にもわたって使用され続けました。

木版印刷の技術と多様な展開

木版印刷では、まず木製の版に彫刻刀を用いて文字や絵を彫り込みます。板目材を用いた板目木版と、堅木の木口面に精密な彫刻を施す木口木版（西洋木版）の2種類があり、一般的に「木版印刷」といえば板目木版を指します。版にインクを塗り、紙を乗せて圧力を加えることで印刷が行われます。中国では、刷毛や櫛形刷毛を用いる手法も用いられました。

単色印刷だけでなく、複数の版木を用いたり、一枚の版木を塗り分けたりすることで、多色刷りも可能でした。特に明代以降は、多色刷り技術（套印）が発展し、精緻な印刷物が制作されるようになりました。版元は版木の保存・管理、修理・補刻・修正、売買などを行い、版木の寿命は数百年にも及ぶため、制作時期と印刷時期が異なる書物（後印本）も存在します。

木版印刷の歴史：起源から衰退まで

木版印刷の起源は明確には解明されていませんが、最古の印刷物として知られるのは、日本の法隆寺に残る『百万塔陀羅尼』（770年）です。ただし、これが木版印刷の最古の例であるかについては、議論があります。確実な年代が確認できる最古の木版印刷物は、868年の『金剛般若波羅蜜経』（敦煌出土）です。

中国では、唐代以降、仏典や儒教経典の印刷が盛んに行われ、北宋時代には大規模な一切経の刊行事業が実施されました。高麗八万大蔵経の版木は、現在も韓国の海印寺に保存されています。宋代には質の高い印刷物が珍重され「宋本」「宋版」と呼ばれていますが、商業出版が本格的に発展するのは明代中期以降です。明代には、小説の出版も盛んになり、四大奇書もこの時代に出版されました。清代には宮廷による大規模な編纂事業が行われ、多くの書籍が木版印刷によって刊行されました。

日本では、『百万塔陀羅尼』以降、平安時代には摺経供養という宗教的な印刷事業が盛んになり、鎌倉時代には寺院版（五山版など）が主流でした。室町時代には、民間出版の先駆けである堺版なども登場します。江戸時代には、出版社、書店、貸本屋が発達し、浮世草子や黄表紙などのベストセラーが生まれ、一般への書籍普及が進みました。浮世絵版画の発達と並行して、多色刷り本も出現しました。

19世紀末以降、石版印刷や活版印刷が普及すると、木版印刷は次第に衰退していきました。

活版印刷との比較

北宋時代に活字印刷が発明されましたが、中国や日本では木版印刷が主流でした。これは、漢字・仮名交じりの文章では活字の種類が膨大になり、準備が困難であったこと、木版の方が自由度が高く効率的であったことなどが理由として挙げられます。明治時代以降、活版印刷が普及するにつれ、木版印刷は徐々にその役割を終えていきました。

まとめ

木版印刷は、東アジアの出版文化に多大な貢献を果たした技術です。その歴史、技術、活版印刷との関係を理解することで、書物の歴史や文化への理解が深まります。 本稿では、様々な文献を参照し、木版印刷に関する詳細な情報を提供しました。 しかしながら、木版印刷に関する研究は現在も進行中であり、新たな発見や解釈がなされる可能性もあります。

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