木田保造

木田保造（きだ やすぞう、1885年 - 1940年）は、日本の近代化が進む明治から昭和にかけて活動した、希代の建築家であり建設業者でした。自らの手で建設会社である木田組（後に木田建業へと発展）を立ち上げ、設計と施工の両面で数多くの建築プロジェクトを手掛けた人物です。また、建設技術の分野においても革新的な功績を残しており、特に軟弱な地盤における基礎工事を劇的に改善する「深礎工法」を発明したことでも知られています。

木田保造は1885年1月13日、現在の千葉県富津市にあたる君津郡大貫町で、網元として成功を収めていた裕福な家庭に生まれました。若い頃から建築への関心を抱き、建築の専門教育を受けるため上京。1906年に工手学校（現在の工学院大学）造家学科を卒業しました。卒業後すぐさま、大蔵省の臨時建築部に籍を置き、ここで建築の実務に関する貴重な経験を積みました。

数年の公職経験を経て、木田保造は自身の理想とする建築を実現するため、独立の道を歩みます。1911年、自身の名を冠した木田組を創業。彼は単に図面を描く建築家としてだけでなく、現場を指揮し、建物を実際に造り上げる建設業者としての手腕も発揮しました。設計から施工までを一貫して行うことで、品質の高い、そして自身の信念に基づいた建築物を次々と生み出していったのです。その活躍は関東地方を中心に始まり、やがて全国へと広がっていきます。しかし、その精力的な活動は突然の形で幕を閉じます。昭和15年（1940年）4月16日、当時彼が活動拠点の一つとしていた中国の南京において、脳溢血により急逝。55歳という若さでその生涯を終えました。

木田保造の業績は多岐にわたりますが、特に建設技術への貢献、そして手掛けた建築作品の多様性と質の高さが挙げられます。深礎工法は、彼が生きた時代の日本の都市開発やインフラ整備において、安全な構造物を実現する上で極めて重要な技術となりました。

彼が手掛けた建築作品は全国各地に点在していますが、中でも北海道の函館市には数多くの代表作が現存しており、函館の街並みを特徴づける歴史的建造物として重要な役割を担っています。例えば、真宗大谷派函館別院は、日本の寺院建築において初めて鉄筋コンクリート構造を採用した画期的な建物です。他にも、カトリック元町教会聖堂、今井百貨店函館支店（現・函館市地域交流まちづくりセンター）、第百十三国立銀行本店（現・エスイーシー電算センタービル）、函館貯蓄銀行本店（現・エスイーシー末広ビル）、金森商船株式会社倉庫、日魯ビル、称名寺、岡本家住宅など、函館には彼の設計・施工による多くの建物が今も利用され、親しまれています。

函館以外にも、東京では銀座松屋デパートをはじめ、山口玉湖神社、第一生命、上野東照宮、京華女子中学高等学校、上智大学１号館、神田明神、昭和第一高等学校といった教育機関、商業施設、宗教施設など、非常に幅広いジャンルの建築を手掛けています。残念ながら現存しない作品も多いですが、白木屋呉服店や福岡銀行須田町支店、松屋呉服店・神田今川橋店なども彼の作品リストに含まれています。札幌には丸井今井百貨店があり、前橋市には麻屋デパートが現存するなど、その活動範囲の広さが伺えます。

木田保造は、建築家としての創造性と、建設業者としての技術力、そして革新的な工法の開発という三位一体の能力を持った稀有な存在でした。彼が残した数々の建築は、日本の近代建築史における重要な遺産であり、特に函館においては今も街の顔として多くの人々に親しまれています。深礎工法という技術的貢献も含め、木田保造の業績は日本の建築・建設業界に lasting impact を与えたと言えるでしょう。

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