未進

未進（みしん）とは

未進とは、近代以前の日本において、年貢、公事、夫役といった賦課された租税を、定められた期限までに納入しないこと、またはその未納分の税そのものを指します。

未進への対応

領主側は未進を当然容認せず、様々な措置を講じて未納分の徴収を図りました。

督促: まず、「付使」と呼ばれる使者を派遣し、納付を促しました。これは穏便な手段であり、まずは納税を促すことを目的としていました。
武力行使: 督促に応じない場合、武力を用いて強制的に納付させました。この手段は、領主の権威を示すものであり、未納者への強い警告ともなりました。
財産差し押さえ: 納付する現金がない場合、家財や、時には妻子、牛馬などを差し押さえました。これは未納者にとって非常に厳しい措置であり、生活基盤を失う可能性がありました。
心理的圧力: 春日社や興福寺領のような特定の地域では、神木を田地に立て、神罰や仏罰をちらつかせることで、心理的な圧力を加えました。これは宗教的な権威を利用した、独特な徴収方法と言えます。

中世においては、未進分に利息がつく場合もありました。これは未納期間が長引くほど、納めるべき金額が増えることを意味し、未納者にとっては大きな負担となりました。また、未進問題は徳政一揆の原因となることもあり、社会不安を招く要因の一つでした。

土地の支配構造が複雑な場合、一族や在地領主による未進分を、惣領や預所が荘園領主などに立て替えて納めることがありました。この場合、立て替えを行った側は、立て替えられた側に対して債務（借金）として訴訟を起こすこともありました。これは、未進問題が単なる納税問題だけでなく、権利関係や債務問題にも発展していたことを示しています。

鎌倉幕府においては、未進に対する法的措置も存在しました。

結解法: 御成敗式目第5条に基づき、3年以内に弁済しない場合、未納者の所職を没収しました。
倍額弁償法: 期限を定めないものの、未進額と同額の利息を課しました。これは未納期間が長引くほど、弁済額が増えることを意味します。
* 下地分与法: 未納者の土地を分割し、未進分と相殺しました。これは未納者の土地を直接的に徴収する方法であり、未納者にとって大きな損失となりました。

江戸時代の未進

江戸時代には、五人組制度や村請制によって、未進問題は地域社会全体の問題として扱われるようになりました。未進を地域の連帯責任とし、村役人らが負担したり、村全体の債務とするなどして、領主への年貢納入（皆済）を優先しました。

個々の農民が全く納付しない場合には、未進よりも重い「不納」とみなされ、土地を没収されて村全体の耕作地とされました。しかし、3年以上皆済できない場合には、土地を一時的に小作地化し、未進分を納付後に返還するという措置も取られました。

まとめ

未進は、時代によってその性質や対応が異なりましたが、常に領主にとって重要な問題であり、未納者にとっては重い負担となるものでした。未進問題は、単なる納税問題だけでなく、社会構造や経済状況、法的制度など、様々な要素が絡み合った複雑な問題であったと言えるでしょう。

この内容は、深谷克己氏の「未進」（『日本史大事典 6』、平凡社、1994年）を参考に作成しました。

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