本塩沢

本塩沢（ほんしおざわ）

本塩沢は、日本の伝統的な絹織物の一つであり、新潟県南魚沼市で古くから織り継がれてきました。「塩沢お召し」という親しみやすい別名でも知られています。この織物は、麻織物である越後上布（越後縮）の技術に範をとり、絹糸を用いて独自の発展を遂げたものです。

歴史的背景

本塩沢の起源は、江戸時代の中期、おおよそ17世紀にまで遡ると伝えられています。この地域で確立されていた越後上布は、その表面に現れる細かな凹凸、通称「シボ」を特徴としていました。当時の織物技術者たちは、この麻織物特有の風合いを、より繊細で光沢のある絹糸で表現しようと試みました。こうした模索の中から生まれた絹縮が、本塩沢の源流にあると考えられています。

明治以降も技術は継承され、現代に至るまでその価値は高く評価されています。特に1976年（昭和51年）には、その卓越した技術と歴史的背景が認められ、国の経済産業大臣指定伝統的工芸品としての認定を受けました。これにより、本塩沢は日本の貴重な文化遺産として、さらなる保護と振興が図られることとなりました。

独特な製法

本塩沢の最大の特徴である「シボ」とさらりとした風合いは、その独特な製法によって生み出されます。まず、主に使用されるのは高品質な生糸です。なかでも、緯糸には強い撚りをかけた「強撚子（きょうねんし）」と呼ばれる特別な糸が用いられます。

織り上げた直後の生地にはまだシボは現れていません。次の重要な工程は「湯もみ」です。織り上がった反物を温かい湯の中に入れ、丹念に揉み込む作業が行われます。この湯もみによって、強く撚られていた強撚子は元の状態に戻ろうとします。この糸が戻る際の反発力が、生地全体に細かな縮みや歪みを生じさせ、それこそが本塩沢ならではの「シボ」となるのです。まるで生きているかのような糸の力を借りて、織物全体に独特の地風が与えられます。

魅力と特徴

湯もみを経て完成した本塩沢の生地は、麻織物にも似た、肌にまとわりつかないさらりとした清涼感のある肌触りを持ちます。この風合いは、湿度の高い日本の気候にも適しており、単衣の着物などに仕立てると非常に快適な着心地が得られます。

また、本塩沢のもう一つの魅力は、糸を染め分けることで表現される緻密な絣模様です。伝統的な柄としては、十字が連なる「十字絣（じゅうじがすり）」や亀の甲羅のような「亀甲絣（きっこうがすり）」などが代表的ですが、他にも様々な絣技法が用いられています。これらの絣模様は、遠目には無地のように見えながらも、近くで見ると糸の一本一本が織りなす精緻な美しさが現れます。

シボによる豊かな表情と、控えめながらも計算された絣模様の組み合わせが、本塩沢独特の上品さと優雅さを醸し出しています。派手さはありませんが、着る人の品格を引き立てる、奥ゆかしい美しさが本塩沢の最大の魅力と言えるでしょう。歴史に培われた技術と、風土から生まれた感性が息づく本塩沢は、着物通に長く愛される伝統的な織物です。

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