本居宣長旧宅

本居宣長旧宅：国学者の足跡を辿る

本居宣長旧宅は、三重県松阪市殿町に位置する、江戸時代の国学者、本居宣長が暮らした家です。宣長は『古事記伝』の著者として知られ、日本の古典研究に多大な貢献をしました。この旧宅は、彼の学問への情熱と生活を今に伝える貴重な史跡として、多くの人々が訪れています。

歴史

宣長の祖先は、伊勢国の北畠家に仕えた武士であり、後に小津と改姓して松阪で木綿問屋を営み、豪商として栄えました。旧宅は、1691年に宣長の祖父である小津三四右衛門定治が隠居所として建てたのが始まりです。当初は松坂職人町に建てられ、後に魚町に移築されました。

1740年に宣長の父が亡くなると、小津家の家運は傾き始めました。翌年、宣長は母と共に隠居所へ移り住み、1751年に家督を継ぎますが、商業を辞めて医師を目指し京都へ遊学します。帰郷後、医学を修める傍ら、『古事記伝』の執筆や後進の指導に力を注ぎ、72歳で生涯を閉じるまでこの家で過ごしました。

書斎「鈴屋」

1782年、宣長は2階の物置部屋を改造し、書斎「鈴屋」を設けました。この書斎は、門人の三井高蔭の援助を受けて増築されたもので、学問に専念できるよう、日常生活と隔絶された空間となるよう工夫が凝らされています。例えば、階段は取り外しができる仕掛けになっており、容易に人が立ち入れないようになっていました。

四畳半ほどの広さの書斎は、茶室のような趣のある小部屋で、真土で塗られた壁や淡彩の山水画が描かれた襖など、質素ながらも趣向を凝らした作りとなっています。室内には、研究に必要な書籍が多数収納されており、宣長が日々研究に没頭していた様子が偲ばれます。書斎の名前の由来となった掛鈴が床の間に飾られています。

「鈴屋」は、宣長にとって単なる書斎以上の意味を持つ場所でした。彼の屋号として、家集の表題や蔵書印などにも使用され、彼の没後もその名は受け継がれています。

保存運動と史跡指定

明治時代まで宣長の子孫が住んでいましたが、1893年の大火により、旧宅の保存が危ぶまれるようになりました。玄孫にあたる本居清造は、旧宅と資料を後世に残そうと決意し、1906年には「鈴屋遺蹟保存会」が設立されました。

1909年、旧宅は保存会の手によって松坂城二の丸跡地に移築され、宣長当時の姿に復元されました。1953年には、旧宅と移築前の跡地が国の特別史跡に指定され、その文化的価値が認められました。

本居宣長記念館

現在、本居宣長旧宅は本居宣長記念館の敷地内にあり、一般公開されています。内部では、宣長が医療活動を行った「店の間」や講釈や歌会に使用した「奥の間」などを見学できます。「鈴屋」は、保存のため立ち入りはできませんが、外から内部を窺い見ることができます。

記念館には、宣長の遺品や著作、研究資料などが多数展示されており、彼の業績や人物像をより深く知ることができます。これらの資料の中には、国の重要文化財や三重県の有形文化財に指定されているものも含まれています。

本居宣長旧宅は、宣長の学問への情熱と、日本の古典研究に捧げた生涯を今に伝える貴重な文化遺産です。松阪市を訪れる際には、ぜひ足を運んでみてください。

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