本拳

本拳（ほんけん）

本拳は、日本に古くから伝わる手指を用いた遊戯の一種であり、「数拳（すうけん）」と呼ばれる拳遊びのカテゴリーに分類されます。別名として、伝来地の名を取った「長崎拳（ながさきけん）」の名でも広く知られています。

歴史的背景

本拳の起源は、江戸時代初期にあたる元禄年間（1688年〜1704年）にまで遡ると考えられています。当時、中国大陸との主要な貿易窓口であった長崎を通じて、日本に伝来したとされています。伝来当初から、主に宴会や酒席における興を高めるための余興として親しまれました。

その人気は時を経て高まり、特に江戸時代後期の天保年間（1830年〜1844年）には最も盛んに行われるようになったといわれています。長崎が伝来地であるだけでなく、その後の普及においても重要な役割を果たしたため、「長崎拳」という名称が定着するほど、この遊戯と長崎は深い関わりを持って発展しました。酒席という賑やかな場での普及は、そのシンプルなルールと、参加者間の瞬時のやり取りが生む高揚感が、宴の雰囲気に適していたためと考えられます。

遊び方

本拳は、原則として二人以上の参加者によって行われます。遊びの基本的な流れは以下の通りです。

1. 対面と準備：参加者同士が向かい合って立ちます。
2. 指の出し方：各参加者は、片方の手を用い、親指から小指までの五本の指の中から、任意の本数（0本から5本まで）を瞬時に選び取ります。そして、全員がほぼ同時に、選んだ数の指を相手に見えるように突き出します。この「素早く屈伸させ」る動作が、遊びにスピード感と駆け引きをもたらします。
3. 合計数の宣言：指を出すのとほぼ同時に、参加者は声に出して、全員が出した指の合計数を予想し、宣言します。例えば、三人で遊んでいて、それぞれが2本、3本、1本を出した場合、合計数は6となります。参加者はこの6という数を、他の人よりも早く正確に言い当てることを目指します。合計数の範囲は、参加人数×5が最大となります。
4. 勝敗の決定：参加者の中で、最も早く、そして正確に全員の指の合計数を言い当てた者が、その回の勝負に勝利します。

この遊びの面白さは、相手が出すであろう指の数を読み取る洞察力や推理力、素早い合計数の計算能力、そして何よりも瞬間的な判断力と運が絡み合う点にあります。簡単なルールながらも、高い集中力と瞬発力が求められ、特に複数の参加者が入り乱れて宣言する様子は、非常に賑やかで場を盛り上げます。

数拳の中での位置づけ

数拳には様々なバリエーションが存在しますが、本拳はその中でも比較的シンプルで基本的な形であると言えます。中国から伝来した原形に近いものであり、他の数拳の遊び方に影響を与えた可能性も指摘されています。

かつては日本の各地で広く楽しまれ、酒席文化の一部として根付いていた本拳ですが、現代においては、より新しい遊戯やエンターテイメントにその座を譲りつつあります。しかし、手指を使った原始的な遊びとして、また歴史的な遊戯文化の一端を示すものとして、その存在は貴重です。

本拳は、単なる数当てゲームではなく、参加者同士の駆け引きや読み合い、そして一瞬の判断力が試される、奥深い魅力を持った伝統遊戯であると言えるでしょう。

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