本田和子

本田 和子

本田 和子（ほんだ ますこ）氏は、日本の児童学界において、先駆的な研究と教育に長年携わった功労者です。1931年1月15日に新潟県に生まれ、2023年2月12日に逝去されました。お茶の水女子大学の名誉教授であり、同大学史上初の女性学長を務めたことでも知られています。専門分野は児童文化論および児童社会史であり、子どもや少女、そしてそれらを巡る社会や文化の変遷について、多角的な視点から研究を深めました。

生涯とキャリア

本田氏は、1954年にお茶の水女子大学家政学部を卒業し、翌1955年に同大学の専攻科を修了しました。学業修了後、教育者としての道を歩み始め、1957年には尚絅女学院短期大学の講師に着任します。その後、1962年には十文字学園女子短期大学の助教授を経て、1970年にお茶の水女子大学家政学部の助教授として母校に戻りました。1983年に同大学家政学部の教授に昇任し、1992年には生活科学部の教授を務めるなど、長きにわたり児童学の研究・教育に貢献しました。お茶の水女子大学での教育活動の傍ら、1995年には聖学院大学人文学部の教授としても教鞭をとっています。

本田氏のキャリアにおける特筆すべき出来事の一つは、2001年にお茶の水女子大学の学長に就任したことです。これは同大学にとって初めての女性学長であり、その後の女性リーダー育成にも影響を与えました。2005年に学長を退任した後も、日本の児童学の発展に貢献しました。

また、学術・教育分野以外でも、放送倫理・番組向上機構（BPO）の放送と青少年に関する委員会（青少年委員会）の委員長を務めるなど、社会における子どもの健全な育成やメディアとの関係性についても積極的に関与しました。

研究業績と受賞

本田氏の研究は、児童文化や児童社会史を軸に、子どもや少女を取り巻く社会構造、歴史的変遷、メディアの影響、教育といった幅広いテーマに及びました。その独自の視点と深い洞察は、多くの研究者や実践家に影響を与えました。

長年の研究活動と業績は高く評価され、数々の賞を受賞しています。日本保育学会からは1957年に倉橋賞、1983年に保育学文献賞が贈られました。また、児童文学者協会から1962年に高山賞佳作、日本児童文学学会からは1985年に研究奨励賞、1990年に同学会賞を受賞しており、児童文学研究への貢献も顕著です。2007年秋には、教育研究における功績により瑞宝重光章を受章しました。

主な著作

本田氏は多岐にわたるテーマで多くの著作を発表しました。単著としては、『子どもたちのいる宇宙』（1980年）、『異文化としての子ども』（1982年）、『子どもの領野から』（1983年）、『少女浮遊』（1986年）、『子どもという主題』（1987年）、『子別れのフォークロア』（1988年）、『オフィーリアの系譜 あるいは、死と乙女の戯れ』（1989年）、『フィクションとしての子ども』（1989年）、『女学生の系譜――彩色される明治』（1990年）、『江戸の娘がたり』（1992年）、『少女へのまなざし』（1993年）、『映像の子どもたち――ビデオという覗き窓』（1995年）、『交換日記　少女たちの秘密のプレイランド』（1996年）、『変貌する子ども世界　子どもパワーの光と影』（1999年）、『子ども100年のエポック』（2000年）、『子どもが忌避される時代 なぜ子どもは生まれにくくなったのか』（2007年）、『それでも子どもは減っていく』（2009年）、『ところで軍国少女はどこへ行った』（2019年）などがあります。

共編著としても、『幼稚園の歴史』（1959年）、『人間現象としての保育研究』（1974年）、『保育現象の文化論的展開』（1977年）、『保育実践講座 第5巻』（1978年）、『わたしたちの「江戸」 <女・子ども>の誕生』（1985年）、『子どもの発見』（1985年）、『少女論』（1988年）、『若者と子供の文化』（1993年）、『子どもと若者の文化』（1997年）、『ものと子どもの文化史』（1998年）、『国立大学改革とお茶の水女子大学のゆくえ』（2003年）など、共同での研究成果や編纂にも精力的に取り組みました。

これらの著作を通じて、本田氏は時代と共に変化する子どもや少女の姿、そしてそれらを取り巻く社会や文化のあり方を深く掘り下げ、読者に新たな視点を提供し続けました。

逝去

2023年2月12日、本田和子氏は永眠されました。生涯を通じて、児童学の研究・教育の発展、そして次世代育成に多大な貢献を残しました。

（参考文献：大阪国際児童文学館編『日本児童文学大事典』など）

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