児童文化

児童文化

児童文化とは、広義には子どもの生活に及ぼす文化的影響の総和を指し、狭義には児童文化財や子ども自身の文化的活動を意味する日本独自の概念です。

児童文化の成立と変遷

児童文化という言葉は、1930年代に心理学者の波多野完治によって作られたとも、1922年に峰地光重によって使われ始めたとも言われています。いずれにせよ、1920年代後半から1930年代にかけて本格的に使用され始めました。その背景には、明治から大正時代にかけて巖谷小波や鈴木三重吉らによって推進された童心芸術運動があります。

具体的な例としては、絵本、児童文学、唱歌、詩歌、紙芝居、児童演劇などが挙げられ、これらは児童文化財とも呼ばれていました。

しかし、1938年（昭和14年）に内務省から「児童読物改善に関する内務省指示要綱」が発令されると、児童文化運動は転換期を迎えます。扇情的、興味本位の児童向け雑誌や赤本漫画が問題視され、波多野完治らは協力しますが、やがて国家統制的な小国民文化へと移行し、「児童文化」という言葉も消えてしまいます。

戦後、「児童文化」という言葉は再び使われるようになりますが、1960年代には、大人が子どものために創作したものだけでなく、子ども自身が創作したものも加えるべきという議論が起こり、滑川道夫らの研究者によって様々な概念定義が提案されました。

1980年頃からは、児童文化に対抗する概念として、「子どもの文化」が登場します。これは、児童文学や唱歌などの芸術的な創作だけでなく、遊びや歌、言葉、商品として提供されるものまで含めた、子どもを取り巻く文化全般を指します。そのため、児童文化は、大人によって子どものために創作・提供された文化を指す狭義の意味で使われる傾向が強くなりました。

研究と教育

児童文化は、その歴史的経緯から、研究分野として確立しているかについては異論もあります。日本で初めて児童文化を専攻分野とする大学のコースは、1985年に白百合女子大学文学部に児童文化学科として誕生しました。この学科は、児童文学・文化専攻と児童心理学専攻の2つのコースに分かれています。

また、短期大学でも、児童文化専攻、もしくはコースを設置しているところが多数あります。

幼児教育の現場では、幼稚園教諭や保育士の養成教育において、絵本、紙芝居、遊び、絵描き歌など、大人が用意・提供する教材を「児童文化」と総称し、子どもたちの情緒、感性、生活スキルの向上に役立てています。

市町村などの自治体が設置する児童文化センターでは、児童劇、児童絵画展、科学展、天文教室など様々な催しが開催されていますが、これらは本来の「児童文化」という言葉の意味合いよりも、広義の「子どもの文化」に関わるものと捉えるべきでしょう。

参考文献

国語教育学会編『児童文化論』（岩波書店、1941年）
教育科学研究会編『児童文化』（西村書店、1941年）
菅忠道ほか著『現代の児童文化』（啓隆閣、1968年）
滑川道夫『児童文化論』（東京堂出版、1970年）
中山茂『児童文化』（朝倉書店、1970年）
東洋・小澤俊夫・宮下孝広編『子どもと教育 児童文化入門』（岩波書店、1996年）ISBN 4-00-003946-6

外部リンク

* 児童文化 - コトバンク

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