本田義英

本田 義英

本田 義英（ほんだ ぎえい）は、明治から昭和中期にかけて活躍した、日蓮宗の高僧であり、学術的な視点から仏教を深く研究した仏教学者です。1888年（明治21年）8月10日、古都・京都に生を受けました。幼い頃は伝次郎と呼ばれ、旧姓は桐山でした。僧侶としての道を歩む一方で、若くして学問への強い関心を示し、その後の人生で学問と信仰を見事に融合させることになります。

学歴と学術キャリアの始まり

知的好奇心に導かれた本田義英は、当時の日本の最高学府の一つであった京都帝国大学に進学します。特に文科大学の印度哲学科で専門的な研鑽を積み、1914年（大正3年）に卒業しました。大学で培ったインド哲学、サンスクリット語、仏典研究の基礎は、後の学術活動の礎となります。

卒業後、僧侶としての務めを果たしつつ、学者としての道を模索。その学識が認められ、1929年（昭和4年）には母校である京都帝国大学文学部の講師に迎えられ、教壇に立つことになります。これにより、本格的に教育・研究の世界に足を踏み入れました。

研究活動と業績

京都帝国大学での教育・研究活動を通じて、本田義英は自身の学問的探求を深めていきました。特に、日蓮宗の根本経典である『法華経』の研究に情熱を注ぎます。彼は、当時の最先端であった印度学、すなわち文献学や歴史学といった科学的な方法論を用いて、『法華経』の多角的な分析を試みました。

その研究成果は高く評価され、1934年（昭和9年）には、「印度学方法論より観たる法華経」と題する論文によって京都帝国大学より文学博士の学位を授与されます。これは、伝統的な仏教学に近代的、国際的な学問手法を取り入れた先駆的な業績として注目されました。同年には助教授に昇任し、翌1935年（昭和10年）には教授に就任。長きにわたり、京都帝国大学においてインド哲学、仏教学の教育と研究を牽引し、多くの優れた人材を育成しました。

定年後の活動と晩年

1948年（昭和23年）、本田義英は京都帝国大学を定年により退官しますが、その豊かな学識と教育経験は学界から依然として求められました。同大学からは名誉教授の称号が贈られるとともに、同年には立正大学、そして稲沢女子短期大学（現在の愛知文教女子短期大学）の教授に就任し、引き続き教育に尽力します。さらに、戦後の混乱期におけるインド学・仏教学の研究拠点であった印度文化研究所の所長も務め、日本の学術振興に貢献しました。

僧侶としての側面

学術畑での輝かしいキャリアとは別に、本田義英は生涯を通じて日蓮宗の僧侶としての信仰生活を重んじました。京都に位置する歴史ある寺院、慈雲院や宝塔寺の住職を歴任し、学問研究と並行して僧侶としての実践も怠りませんでした。学理の探求と信仰の実践という、異なるようで根源的には通じ合う二つの道を歩み続けたのです。

主な著作

本田義英の研究成果は、以下の代表的な著作として結実しています。

『仏典の内相と外相』（弘文堂書店、1934年）
『法華経に関する諸問題』（日蓮宗宗務院、1936年）
『法華経論 印度学方法論より観たる一試論』（弘文堂、1944年）
『法華経新訳要集』（訳著、平楽寺書店、1951年）

これらの著作は、インド学の方法論を駆使して仏典、特に『法華経』を読み解こうとした彼の学術姿勢を明確に示しています。特に『法華経新訳要集』は、難解な仏典をより広く一般に伝えるための試みとして重要な意味を持ちます。

まとめ

本田義英は、厳密な学問的方法論をもって仏教の真理を探求した仏教学者であり、同時に信仰に篤い日蓮宗の僧侶でした。京都帝国大学での長年にわたる教育・研究活動、特にインド学的方法論による『法華経』研究は、日本の仏教学史において独自の、そして重要な足跡を残しました。1953年（昭和28年）7月29日、64歳でその波乱に富んだ生涯を閉じましたが、その学問的遺産は今なお多くの研究者や信仰者に影響を与え続けています。

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