本郷町の炭田

本郷町の炭田

本郷町の炭田は、広島県福山市本郷町、当時の沼隈郡本郷村に位置し、明治から昭和初期にかけて亜炭が採掘された場所です。炭田の存在は、地域の経済活動と産業の発展に寄与したものの、その品質の悪さから短期間での操業にとどまりました。

明治期の採掘

1898年（明治31年）、尾道市の鳥居家が資本提供を行い、採掘が始まりました。現地には常駐する番頭として小西が派遣され、採炭主任には岡本関太郎が任命されました。岡本は九州北部から熟練の炭鉱夫を数名招き入れ、本郷の水田に坑道を設けて作業を開始しました。その坑口は後に「炭鉱田」と呼ばれることとなります。

掘削は水田から南東へ進み、小川保氏の自宅の下まで達しました。この坑道は、見事な造りのもので、支柱とともに合掌形式の天井が組まれていました。必要な木材は、地元の小原村に住む茂七が提供し、鉱夫たちは近隣で生活しながら作業を行いました。彼らは飯を炊く地元の婦人や水汲みを担当する係と共に、20名ほどで採掘活動を行いました。

石炭は叺（かます）に詰められ、大八車で松永駅に運ばれ、鉄道で出荷されましたが、品質は芳しくなく亜炭中心でした。出荷できなかった炭は本郷川の川原に投棄されることもありました。この年、八幡社祭では、今津村の人々との間で喧嘩が起こり、鉱夫たちが短刀を携えて駆けつけるという事件も発生しました。結局、この明治期の採掘は約1年で中断され、その後は鉱夫たちが故郷へ帰ることになりました。

昭和期の採掘

1947年（昭和22年）、戦後のエネルギー不足により再び採掘作業が始まりました。この時、神戸市長田区に住む豊島征四郎が新たな経営者とし、現場を仕切ったのは小川九一でした。彼は自宅の裏手から坑道を掘り進め、東側と南東側へ進行しました。

また、小川定の水田の中央に深さ13メートルの井戸を掘り、その底から新たに坑道が掘り進められました。この作業には12から13名の鉱夫が従事し、約500トンの亜炭が採掘されましたが、発熱量は1500-2200kcalであり、品質はやはりあまり良くありませんでした。出荷価格は1トンあたり1500円程度で、単独の燃料としての使用は難しく、主に他の燃料と混ぜて使用されました。

採掘活動は、採算に苦しみ、約1年10か月後の1948年（昭和23年）には閉山を迎えました。本郷町の炭田は、その歴史を通じて地域社会に影響を与えつつも、その短い操業期間の中で多くの出来事が積み重なりました。炭田跡地に残る記憶や痕跡は、当時の人々の暮らしや地域の発展の一部として、今後も受け継がれていくことでしょう。

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