本間正史

本間 正史（ほんま まさし）

1947年9月22日に生まれ、2016年2月16日に永眠した本間正史は、日本の音楽界においてオーボエ奏者、音楽教育者、そして楽器製作者という多角的な顔を持つ人物でした。モダン楽器を用いたオーケストラでの活動と並行して、古楽の分野でもパイオニアとして第一線で活躍し、日本の古楽演奏の発展に尽力しました。美術評論家であった本間正義を父に持ちます。

幼少期からヴァイオリンを学びますが、浦和高校在学中にジャズのビッグバンド、デューク・エリントンの演奏に触れたことがきっかけで管楽器への道を志します。1966年に東洋音楽大学（現東京音楽大学）へ進学し、梅原美男からオーボエの手ほどきを受けました。その後、1968年に桐朋学園大学に入り、オーボエを鈴木清三に、室内楽を北爪利世および齋藤秀雄に師事。1972年には同大学を首席で卒業するという輝かしい成績を収めました。卒業と同年の5月には東京都交響楽団に入団し、プロのオーボエ奏者としてのキャリアをスタートさせます。この時期、モダン楽器での活動と並行して、バロック・オーボエの演奏法や楽器製作に関する研究を独学で深めていきました。

1976年には文化庁の海外研究員としてオランダへ留学。デン・ハーグ王立音楽院で、古楽オーボエの権威であるブルース・ヘインズにバロック・オーボエの演奏を、ヴィーラント・クイケンには室内楽を師事しました。アムステルダムでは「ダンツィ・クインテット」の一員としても活動し、国際的な経験を積みました。

1978年に帰国後、同時期に海外から戻った有田正広、花岡和生、有田千代子らと共に、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者の中野哲也を加えて「オトテール・アンサンブル」を結成。本間自身は当初「ザ・バロックメン」という名称を強く希望したものの、採用には至らなかったというエピソードも残されています。東京都交響楽団の首席オーボエ奏者として多忙な日々を送る傍ら、オトテール・アンサンブルとしても精力的に演奏活動やレコーディングに取り組みました。1989年にリリースしたアルバム『18世紀フランスの室内楽』は、ドイツ・グラモフォンの古楽専門レーベルであるアルヒーフから発売され、日本の古楽演奏が世界に紹介される画期的な出来事となりました。この録音は昭和54年の芸術祭優秀賞（レコード部門）を受賞しています。また、1979年には新設された桐朋学園大学の古楽科で講師を務めるなど、後進の指導にも力を入れました。

1982年には、巨匠フランス・ブリュッヘンが率いる「18世紀オーケストラ」のヨーロッパ・ツアーに、トップ・オーボエ奏者として参加。これは、日本の古楽演奏家が世界的なアンサンブルで重要な役割を担った初期の例として特筆されます。1988年には、有田正広の主導で設立された日本初の本格的な古楽オーケストラ「東京バッハ・モーツァルト・オーケストラ」、そしてその後に引き継がれた「クラシカル・プレイヤーズ東京」で、首席オーボエ奏者および管楽器セクションのリーダーを務め、日本の古楽オーケストラの基礎を築きました。

現代音楽の分野でも重要な仕事を残しています。1993年、作曲家・武満徹のCD『ジェモー』の録音でオーボエ・ソロを担当。武満からはオーボエ協奏曲の作曲を約束されるも、武満の死去によりその実現は叶いませんでした。

2012年3月31日に東京都交響楽団を退団。その後も活動を続けましたが、2016年2月16日に惜しまれつつこの世を去りました。

本間正史は、モダンオーケストラの第一線で活躍しながら古楽研究を深め、日本における古楽演奏の普及と発展に多大な貢献をしました。その活動は演奏にとどまらず、教育、そしてバロック・オーボエの楽器製作研究にも及び、日本の木管楽器界、特にオーボエの世界において、その影響力は計り知れません。

主なディスコグラフィー

『ヘンデル、木管楽器のためのソナタ全集』（オトテール・アンサンブル主要メンバーと共演、1989年 アルヒーフ）
『ヴィヴァルディ、木管楽器のための協奏曲集』（東京バッハ・モーツァルト・アンサンブルと共演、1992年 デンオン・アリアーレ）
『オーボエ四重奏曲集』（1999年 デンオン・アリアーレ）
『フレンチ・オーボエの芸術』（中野哲也、岩淵恵美子と共演、1995年 ALM Record）
* 『浜松市楽器博物館コレクションシリーズ22:至高のバロック・オーボエ－スティンズビー・シニアとクレーニヒ』（中野哲也、梅津樹子と共演、2010年 ALM Record）

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