札内川十の沢北海道大学山岳部遭難事件

1965年北海道大学山岳部札内川十の沢遭難事件：6名の学生と雪崩の悲劇

1965年3月14日、北海道大学山岳部の6名からなる登山隊が、日高山脈札内川上流の十の沢で遭難しました。春山登山計画の一環として、カムイエクウチカウシ岳、神威岳、幌尻岳などを目指す14日間の行程で、3月11日に入山。6名全員が、大規模な雪崩に巻き込まれ、帰らぬ人となりました。

詳細な登山計画と遭難

この登山計画は、北大の登山本部に届け出られ、万が一に備えて北大内に留守本部を設置。OBも待機する体制が整えられていました。計画では、北札内から札内川を遡上し、十の沢左岸の尾根を通って国境稜線を越え、カムイエクウチカウシ岳、神威岳、幌尻岳へと至るルートを予定していました。

3月13日には十の沢左岸の尾根に到達。しかし、同日昼頃から無風の大雪となり、14日未明まで続きました。その夜、露営中に大規模な雪崩が発生。6名全員が雪崩に巻き込まれたのです。

捜索活動と遺体の発見

予定日になっても下山しなかったため、捜索隊が組織され、他の登山隊への聞き込みが行われました。北海道大学山スキー部の隊が、13日14時頃、十の沢付近で雪洞を掘っていた沢田隊を目撃。これが最後の目撃情報となりました。他の大学の登山隊は悪天候のため沢田隊と遭遇していませんでした。

3月26日からの第一次捜索、5月14日からの第二次捜索も、遺体発見には至りませんでしたが、山スキー部の証言から、雪崩のデブリ下に沢田隊の雪洞が存在することが判明。これにより、遺体発見の可能性が高まりました。

6月1日からのパトロールで、6月13日、ついに沢田義一隊長の遺体が発見されました。遺体は雪洞状の穴にあり、ポケットから「処置・遺書」と書かれた地図、そして2,000字を超える遺書（雪の遺書）が見つかりました。遺書から、雪崩のデブリの中で4日間生存していたことが分かりました。その後、6月16日までに、残りの5名全員の遺体も発見されました。

繰り返される悲劇と教訓

この事件は、北海道大学山岳部にとって、二度目の大規模な雪崩遭難でした。1940年1月には、同じ日高山脈で9名の部員が雪崩に巻き込まれ、8名が死亡する事故が発生しています。

札内川十の沢遭難事件は、日本の山岳遭難史において大きな悲劇として記録されています。沢田義一隊長の遺書は、厳しい自然環境下での生存の限界、そして、仲間との絆、そして、生への執念を描き出しています。この事件は、現代においても、山岳登山における安全対策、自然に対する謙虚さ、そして、チームワークの重要性を改めて認識させる、貴重な教訓となっています。

参考文献

沢田義一『雪の遺書 : 日高に逝ける北大生の記録』大和書房、1966年
清水弘, 遠藤八十一, 渡辺興亜, 山田知充「1965年札内川なだれ調査報告」『低温科学 物理篇』第24号、北海道大学低温科学研究所、1966年3月

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