朱器台盤

朱器台盤：藤原氏の象徴と継承の歴史

朱器台盤は、平安時代の摂関家、藤原氏の家宝として代々受け継がれてきた、朱塗りの台盤と調度品を指します。正月に行われる重要な儀式「大饗」において使用され、藤原氏の権威と正統性を象徴するレガリア（王権の象徴）としての役割を担っていました。

大饗における朱器台盤

大饗は、主人と客が卓を囲んで行われる盛大な酒宴でした。朱器台盤は、その宴席の中心となる台盤であり、朱塗りの食器や酒器とともに用いられました。記録によると、大饗で使用された朱器は長櫃4台に収められ、台盤は大小合わせて27個存在したとされています。これらの朱器は、参加者の身分に応じて大きさや数が決められていました。例えば、尊者には朱漆三尺台盤が、公卿には朱漆四尺台盤が用いられるなど、厳格な規定があったようです。台盤は上部が朱塗り、下部が黒塗りという特徴的な造りでした。

継承と儀礼

伝承によれば、藤原冬嗣が勧学院に納めた朱器台盤は、その後、勧学院の別当を兼務した藤原氏の当主によって代々所持されていました。摂関家における朱器台盤の重要性が明確になったのは、10世紀後半、藤原兼家以降のことです。『小右記』には、兼家が摂政就任時に正月大饗で朱器台盤を使用した記述があり、それ以前にも継承されていた可能性が示唆されています。

後三条天皇の改革により正月大饗の様式が変化すると、摂関家の正月大饗が注目されるようになり、「朱器大饗」という言葉が頻繁に使用されるようになりました。朱器台盤の正式な継承が慣習化した時期は、藤原師実の継承時と見なされていますが、『御堂御記抄』の記述から、それ以前にも類似した儀礼が存在した可能性があります。

平安時代後期には、朱器台盤は特定の場所に保管され、継承の際に「朱器渡りの儀」と呼ばれる儀式によって新たな当主に受け継がれるようになりました。この儀式は、朱器台盤だけでなく、吉書（祝いの書）などの重要な物品も同時に受け継ぐものでした。有名な例として、藤原忠実が次男の頼長に朱器台盤を強引に譲渡した事件があります。

藤原頼通以降、摂関家の地位を巡る争いが激化すると、藤原忠実は、朱器台盤を保持するだけでは藤氏長者・摂関家の地位の正統性を維持できないと考え、新たな就任儀礼として平等院の経蔵の開封検査を行う「宇治入り」を追加しました。

鎌倉時代に入ると、正月大饗はほとんど行われなくなり、朱器台盤の存在も次第に不明瞭になっていきます。正応2年（1289年）の近衛家基への朱器渡りが、現時点で確認できる最後の記録です。

まとめ

朱器台盤は、単なる調度品ではなく、藤原氏の権威と正統性を象徴する重要なレガリアでした。その継承の歴史と儀式における役割は、平安時代の政治史を理解する上で重要な手がかりとなります。大饗という儀式と深く結びつき、藤原氏の権力構造や継承儀礼の変化を反映していると言えるでしょう。また、朱器台盤をめぐる争いは、平安時代後期以降の摂関家の権力闘争を象徴的に物語っています。今後の研究により、朱器台盤の更なる歴史が明らかになることが期待されます。

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