杉みき子

杉みき子

日本の児童文学界において、郷土の豊かな自然とそこに生きる人々の温かい交流や哀歓を紡ぎ出した作家として知られる杉みき子氏（本名：小寺佐和子）は、1930年（昭和5年）、現在の新潟県上越市にあたる高田市寺町の地に生を受け、その地で育ちました。父が電気技師であった家庭で、幼い頃から書物に親しみ、特に父が集めた円本全集を通じて読書の喜びを知りました。

高田高等女学校（現在の新潟県立高田北城高等学校）を経て、長野女子専門学校国語科（後の長野短期大学）で学びました。文学への道に進むきっかけの一つは、同じ上越市出身で母校・大手町小学校の先輩にあたる児童文学作家、小川未明の存在を知ったことでした。7歳でその存在を知って以来、児童文学への憧れを抱き続けます。

太平洋戦争中の1945年には学徒動員で市内の工場で勤労奉仕を経験。戦後、長野県女子専門学校で学んだ後、1950年に地元、東北電気工事株式会社高田営業所に就職します。会社勤務を続ける傍ら、創作活動を開始。特に地方紙である新潟日報の読者投稿欄「お母さんの童話」へ積極的に作品を寄せ、児童文学者の関英雄氏から指導を受ける機会を得ました。この地道な努力が実を結び、1957年には「かくまきの歌」で第7回児童文学新人賞（現在の日本児童文学者協会新人賞）を受賞し、作家としての第一歩を踏み出しました。

デビュー後も精力的に執筆活動を続け、「小さな雪の町の物語」で小学館文学賞、「小さな町の風景」で赤い鳥文学賞を受賞するなど、児童文学界の主要な賞を次々と受賞。その功績は郷土にも認められ、上越市文化表彰や新潟県知事表彰、新潟日報文化賞などを受章しています。作品は「わらぐつの中の神様」をはじめ、昭和40年代以降、光村教育図書や教育出版など、多くの主要な教科書に教材として採択され、長年にわたり全国の子どもたちに読み継がれています。また、作家活動以外にも、母校の小学校の記念歌や創立100周年歌の作詞を手がけるなど、郷土への貢献も忘れませんでした。さらに、小川未明文学賞の選考委員を務めるなど、後進の育成や児童文学の振興にも寄与しました。

ペンネーム「杉みき子」は、昭和30年代から使用されたもので、その由来は、出身地である高田に多く自生する杉の木にちなんでおり、「ただまっすぐに立つ幹」のような作家でありたいという願いが込められています。意外な一面として、本名の小寺佐和子名義でミステリ雑誌の読者投稿欄に頻繁に寄稿するほどのミステリファンでもあったことが知られています。

杉みき子氏の作風について、指導者であった関英雄氏は、「一貫して、作家自身の生活者としての深い共感を土台に、郷土の自然とそこに生きる人々の喜びや悲しみを描き続けている」と評しています。また、「散文詩のような短い作品の中に、北国の厳しい風土が育んだ豊かな想像力を盛り込んでいる」とし、小川未明の童話と通じる抒情性を持ちながらも、「作品の根底にあるリアリズムや登場人物の性格的な楽天性は未明の作風とは異なる」点を指摘しています。郷土の情景を温かく、そして時に切なく描き出す筆致は、多くの読者の心を捉えて離しません。

多数の著作があり、代表作には前述の「かくまきの歌」や教科書掲載で有名な「わらぐつの中の神様」のほか、「さよならを言わないで」「小さな町の風景」「小さな雪の町の物語」「月夜のバス」などがあります。これらの作品を通じて、杉みき子氏は日本の児童文学に確かな足跡を残しています。

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