李全

李全（り ぜん）：激動の時代を駆け抜けた武将の生涯

李全（生年不詳 - 1231年）は、金朝末期からモンゴル帝国初期にかけて活躍した人物です。彼は、紅襖軍という反乱軍の指導者として頭角を現し、後に南宋に帰順、最終的にはモンゴル帝国の傘下に入るという、激動の生涯を送りました。

紅襖軍参加まで

李全は、現在の山東省濰坊市北海県出身の農民でした。3人兄弟の末っ子であったため、「李三」とも呼ばれていました。生年は記録に残っていませんが、その活動時期から1180年頃の生まれと推測されています。彼は若い頃から弓馬の訓練に励み、特に鉄槍の扱いに長けていたため、「李鉄槍」という異名を持ちました。

山東地方の史書『斉東野語』によると、李全はもともと牛馬の販売を生業としていましたが、益都府で知り合った商人とともに漣水県へ向かう途中で盗賊に襲われ、財産を失ってしまいます。生活のため、やむなく漣水県の弓兵となりました。

当時、山東地方では金朝の強引な土地政策によって土地を失った農民たちの間で反金感情が高まっていました。南宋は、河北地方の領土奪還を目指し、この状況を利用しようと画策していました。1205年、李全は南宋の鎮江都統、戚拱が派遣した朱裕と協力して漣水県を焼き討ちし、5日間にわたって占拠しました。しかし、金朝が南宋に責任者の処罰を要求すると、南宋はあっさりと李全を見限り、朱裕を殺害してその首を晒し首にしました。この事件は、南宋側の記録には残っていません。

紅襖軍の頭領として

1210年代に入ると、モンゴル帝国が金朝領土を席巻し始めます。1213年には、山東地方に侵攻したモンゴル軍によって李全の母と長兄が殺害されたと伝えられています。金、南宋、モンゴルの間で連年のように戦乱が繰り広げられ、山東地方の民衆は困窮し、ついに1211年頃から「紅襖軍」と呼ばれる反乱軍を形成しました。当時の紅襖軍は、楊安児と劉二祖という有力な指導者によって二分されており、それぞれ山東東路と山東西路を中心に勢力を拡大していました。

一方、李全は次兄の李福とともに数千の兵を集め、密州西南の九仙山を拠点として自立しました。彼の配下には、劉慶福、国安用、鄭衍徳らがいました。九仙山は、山東地方の重要な結節点であり、塩の密売人や反乱者、盗賊などが集まる場所でした。李全は、内陸部と産塩地を往来する塩の密売人を配下に入れ、様々な情報を収集していたと考えられています。

1212年、モンゴルと金朝の間で一時的に和議が結ばれると、金朝は僕散安貞率いる討伐軍を派遣して紅襖軍を鎮圧しようとしました。楊安児は金軍に敗れて南へ逃れようとしましたが、殺害されてしまいます。楊安児には子供がいなかったため、妹の四娘子が残党を率いて「姑姑」と呼ばれ、磨旗山を拠点としました。そこに李全が合流し、四娘子と結婚して紅襖軍の指導者の地位を継承しました。一方、劉二祖もまた僕散安貞の攻撃によって敗死し、その勢力は一時的に霍儀が継承していました。

その後、金朝が首都を開封へ遷都したことをきっかけにモンゴル軍が再び侵攻を開始したため、河北一帯は事実上の無政府状態に陥り、金朝は李全ら紅襖軍残党に手を出す余裕を失っていました。李全は山東東路の沿海地方に勢力を拡大し、劉二祖の勢力を継承した霍儀とも戦って勝利を収めています。

南宋への帰順

1217年、南宋が金朝に対して故地回復を掲げて開戦すると、李全ら紅襖系の勢力が注目されるようになりました。かつて楊安児の下にいた沈鐸らが南宋の命令を受け、紅襖軍を味方に引き入れようと活動しました。食糧不足に悩んでいた紅襖軍の指導者たちは、次々と南宋への帰順を表明しました。

李全は5千の兵を率いて南宋軍に合流し、海州を攻めましたが、食糧不足のため一時撤退しました。その後、改めて莒州を攻撃し、守将を捕らえることに成功しました。また、配下の武将が密州を攻略し、李全の兄の李福が青州を平定したため、南宋朝廷は1218年、李全を京東路総管に任命しました。李全らは南宋から「忠義軍」と呼ばれるようになり、食糧が支給されるようになりました。ただし、この食糧は沈鐸らに優先して支給されており、これが後の内紛の遠因となりました。

しかし1218年に入ると、金朝側も反撃を開始し、李全は度々敗北を喫しました。1219年に入ると、山東からの難民が南宋領に押し寄せ、南宋側も物資不足となりました。南宋は忠義軍への食糧援助を減らしたため、不満を抱いた石珪が反乱を起こします。李全は石珪の下に派遣され、仲介を受け入れさせています。その後、李全は根拠地の東海で選抜した精鋭軍を率いて楚州から出撃し、金軍を破る大功を立てました。この戦いによって、李全の名声は忠義軍の中で随一になったとされています。

同年9月、淮東制置使が成立し、忠義軍を監督する地位に就きました。一方、同時期に李全は広州観察使・左衛将軍・京東忠義諸軍都統制・楚州駐札に任命され、忠義軍の統率者の地位を認められました。

モンゴルへの投降と最期

1226年、モンゴル軍が山東地方に大挙侵攻し、李全は益都に籠城しました。南宋に援軍を求めたものの、見捨てられ、1227年、ついにモンゴル軍に降伏しました。

以後、李全はモンゴルの先鋒として南宋への攻撃を繰り返しましたが、1231年1月に南宋軍との戦いの中で戦死しました。死後、その勢力は一時的に妻の四娘子が受け継ぎましたが、後には李全の養子であった李璮が継承することとなりました。

李全は、その生涯において所属する勢力を何度も変え、激動の時代を生き抜きました。そのため、モンゴル時代（元代）より批判的に評価されることが多かったですが、近年では忠義人として評価する研究者もおり、その評価については議論が続いています。

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