李始榮

李始榮：朝鮮の近代化と独立運動を担った官僚、政治家、そして教育者

李始榮(イ・シヨン、1868年12月3日-1953年4月19日)は、激動の時代に生きた朝鮮半島を代表する人物の一人です。李氏朝鮮末期から大韓民国建国期にかけて、官僚、独立運動家、政治家、教育者として多様な役割を担い、その生涯は朝鮮の近代化と独立への道のりを象徴しています。

華麗なる家系と官僚への道:

李始榮は、代々高官を輩出した名家に生まれました。幼少期から漢学を学び、1885年には科挙に合格。その後、官僚として着実にキャリアを積んでいきます。1894年には、当時開化派のリーダー格であった金弘集の娘と結婚。しかし、金弘集が親露派の陰謀によって暗殺されると、李始榮自身も官職から一時的に遠ざかります。

日韓併合への抵抗と満州亡命:

1905年、李始榮は外部交渉部長として官界に復帰。しかし、日本による第二次日韓協約締結には断固反対し、外交部長を辞任。その後も様々な官職を歴任しながら、日本に対する抵抗運動と近代化への啓蒙活動に尽力しました。日韓併合後は朝鮮総督府に在職していましたが、やがて官職を辞し、一族郎党で満州へ亡命します。

満州における独立運動と人材育成:

満州では、朝鮮人のための開拓事業や教育事業に携わり、多くの朝鮮人の生活基盤の向上に貢献しました。さらに、吉林省に新興武官学校を設立し、独立闘争を担う人材育成にも力を注ぎました。1919年に大韓民国臨時政府が樹立されると、その一員となり、財務総長、国務委員、法務委員長など要職を歴任。臨時政府の活動を支え、韓国の独立を強く訴え続けました。

帰国後、教育・政治活動への転身:

第二次世界大戦後、李始榮は韓国に帰国。ソウルに新興専門学館（現在の慶熙大学校）を開校し、教育者として後進の育成に貢献しました。同時に、李承晩率いる韓国独立促成中央協議会にも参加し、政治活動にも深く関わっていきます。左右両派の対立が激化する中、李始榮は一時的に政界から距離を置きますが、南北朝鮮分裂が現実味を帯びると、南部での単独政権樹立に向けて積極的に動き出します。

副大統領就任と辞任、そして大統領選への挑戦:

1948年、李承晩政権が発足すると、李始榮は大韓民国初代副大統領に就任。しかし、この人事は韓民党に対する牽制という側面も持っていました。朝鮮戦争勃発時には政府と共に釜山に避難しますが、国民防衛軍事件の発覚を機に李承晩政権への不信感を表明し、1951年に副大統領を辞任。その後は隠遁生活を希望していましたが、1952年の大統領選挙には民主国民党から大統領候補として擁立されます。しかし、結果は惨敗に終わります。その後も、李承晩政権の独裁体制に反対し、野党との連携を図るなど政治活動を続けました。

晩年とその後:

李始榮は、1953年に釜山で亡くなりました。朝鮮戦争終結後、国民葬が営まれ、1964年にはソウルに改葬されました。彼の生涯は、朝鮮半島の近代化と独立に向けた揺るぎない信念と、その実現に向けた献身的な努力を物語っています。数々の要職を歴任した官僚としてのキャリア、満州亡命中の独立運動への尽力、そして帰国後の教育・政治活動を通じ、李始榮は韓国の歴史に大きな足跡を残したのです。彼の著作『感時漫語』は、激動の時代を生きた彼の思想や経験を知る上で貴重な資料となっています。

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