村井古道

村井古道：江戸時代の奈良を彩った郷土史家、外科医、そして俳人

村井古道（むらい こどう、1681年-1749年）は、江戸時代の奈良において、郷土史家、外科医、俳人として多方面で才能を発揮した人物です。特に、郷土史家としての業績は高く評価されており、代表作である『奈良坊目拙解』は、近世奈良研究において極めて重要な史料となっています。

生涯と多様な活動

1681年、奈良で、郷土史家であり俳人でもあった村井道弘を父として誕生しました。本名は勝九郎、外科医としての号は升哲。様々な号を用いていましたが、最も有名なのは無名園古道です。

若い頃から父の影響を受け、俳諧の世界にも足を踏み入れましたが、才能に恵まれたとは言えず、また時代の流れにも影響を受け、地誌研究に比べると俳諧への関与は限定的でした。

20歳頃から地誌に興味を持つようになり、郷土史家としての道を歩み始めます。既存の奈良の地誌は、寺社の縁起をまとめたものが多く、科学的なアプローチに欠けていました。一方、村井古道の著作は、膨大な資料を収集・調査し、その出典を明確に示すなど、綿密な調査に基づいた記述が特徴です。寺社だけでなく、町々の由来なども網羅した、奈良において初めての本格的な地誌と言えるでしょう。また、独自の文体で書かれた漢文による著作も多数残しています。

絵画にも才能を発揮し、『奈良年中行事絵巻』などの作品を残しています。自身の著作の装丁にもこだわり、洗練された仕上がりとなっています。茶道の名著『長闇堂記』の写本も残していますが、自身は茶の湯には関心がなかったようです。

1749年、69歳で亡くなりました。

平松倍千との取り違えと再発見

村井古道の著作は多くが無名園古道の名で発表されましたが、長らく、同じく俳諧師である平松倍千と同一人物と誤認されていました。明治期の文献にもその誤りが反映されており、近年になってようやく村井古道と平松倍千は別人であることが確認されました。

この誤認の背景には、複数の要因が考えられます。例えば、村井古道の著作が平松家に所蔵されていたこと、あるいは文献における引用の誤りなどです。しかし、両者の没年や出身地、活動時期などの相違点から、研究者によって再検討が行われ、1949年に霊巌院にある墓石の発見によって、村井古道の存在と、その業績が再確認されました。

主要な業績

村井古道は、郷土史研究において多大な貢献をしました。その業績は多岐に渡り、以下に主なものを挙げます。

『奈良坊目拙解』: 15巻14冊からなる代表作。30年もの歳月をかけて執筆された、近世奈良における地誌研究の金字塔です。科学的な手法を取り入れ、綿密な調査に基づいた正確な記述は、後世の研究者にも大きな影響を与えました。
『興福寺伽藍仏像図記』: 興福寺の伽藍と仏像に関する貴重な記録です。
『南都名産文集』: 奈良の名産品を紹介した俳諧文集です。
『奈良年中行事絵巻』: 奈良の年中行事の様子を描いた絵巻物。
『東大寺廻向開帳図略』: 東大寺での廻向開帳の様子を描いた記録。
『奈良名所記』: 奈良の名所を紹介した簡潔な案内書。
『南都名所順路略志』: 奈良の名所を巡るルートを示した案内書。
『諾楽事跡考』: 古代奈良に関する歴史的事実を考察した著作。
『高円山白毫寺縁起』: 白毫寺の縁起に関する記述。
『南都年中行事』: 奈良の年中行事に関する記録。
『率川御子守神社御本縁並若宮阿波神社由緒』: 率川神社の由緒を記した書。
『春日社水屋綱目闘諍記』: 春日社における紛争に関する記録。
『奈良曝古今俚諺集』: 奈良の方言や俗諺を集めた書。
『奈良見聞雑記』: 奈良に関する様々な情報を集めた書。
『東大寺大仏殿釿初記』: 東大寺大仏殿再建に関する記録の写本。
『俳諧今宮草』: 師である小西来山の遺稿集の編纂にも携わっています。
* 『長闇堂記』: 茶道に関する書籍の写本。

これらの著作は、近世奈良の社会、文化、歴史を理解する上で、極めて重要な史料となっています。村井古道の業績は、現代においても高く評価され、その研究は継続されています。彼の生涯と業績は、江戸時代の地方における知識人の活動の一端を垣間見せてくれる貴重なものです。

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