村松秀直

赤穂浪士・村松喜兵衛秀直：波乱に満ちた生涯

村松秀直は、江戸時代前期に活躍した赤穂浪士の一人です。寛永19年（1642年）、江戸で浪人の子として生まれました。父は町人となり生活していましたが、秀直は寛文元年（1661年）頃、赤穂藩士で数学者としても知られた村松茂清の婿養子となり、武士の身分を得ます。これは茂清の実子である村松半太夫が行方不明だったためでした。

秀直は養父・茂清の死後、村松家の家督を相続。赤穂藩では江戸詰めの奉行や宗門改を務め、長らく江戸に滞在していました。元禄14年（1701年）、主君・浅野内匠頭長矩が吉良上野介義央に刃傷に及んだ際も、秀直は長男・高直と共に江戸にいました。事件直後、赤穂へ向かい大石良雄に血判書を提出。その後、江戸に戻り、南八丁堀、のち吉良邸近くの借家に住み、医師に扮して吉良の動向を探りました。この間、金銭的な苦労もあったようで、大石良雄から借金をしている記録が残っています。

元禄15年12月14日、秀直は長男・高直と共に吉良邸討ち入りに参加。表門隊として討ち入りに加わった彼は、義央の斬殺後、長府藩に預けられ、田上五左衛門の介錯によって切腹しました。享年62歳。主君・浅野長矩と同じく、江戸の高輪泉岳寺に葬られました。法名は刃有梅剣信士です。

秀直の辞世の句は「命にも易（かえ）ぬ一つを失はば逃匿れても此を遁れん」と伝わっています。これは、たとえ命を落とすことになっても、主君の仇討ちを貫く決意を表した壮絶な句と言えるでしょう。遺品として、国長と寒広の刀が伝えられていましたが、泉岳寺住職による売却により現在は現存しません。

秀直の次男、村松政右衛門は旗本小笠原長門守の家臣となっていましたが、父と兄の事件に連座し、伊豆大島に流されました。しかし、宝永3年（1706年）の桂昌院一周忌の大赦令により赦免され、他の赤穂浪士遺児に先駆けて江戸へ戻りました。洞雲寺で出家し無染と号しましたが、宝永6年（1709年）の赤穂浪士遺児への大赦により還俗、再び小笠原家に仕えましたが、家風との相違により去り、その後は武州赤山で暮らしたと伝えられています。その最期については詳細は不明です。

創作物の中には、秀直が元町人であったこと、按摩に扮して吉良邸を探りながら、その下手な揉み方から怪しまれ、乱暴者たちに襲撃されたが、柔術でこれを退けたというエピソードも存在します。これは史実の裏付けとなる証拠はありませんが、秀直の人物像をより身近に感じさせる、興味深い逸話と言えるでしょう。

村松秀直は、武士としての忠義を貫き、人生の最後まで揺るぎない信念を貫き通した人物でした。彼の生涯は、時代劇の枠を超え、現代においても多くの人の胸を打つ、感動的な物語として語り継がれています。赤穂浪士四十七士の一人として、彼の名は永遠に歴史に刻まれることでしょう。

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