村﨑義正
村﨑義正（むらさき よしまさ、1933年3月7日 - 1990年2月23日）は、昭和時代に活躍した日本の猿まわし師であり、政治家としても活動しました。山口県光市出身で、「周防猿まわしの会」の初代会長を務めた人物です。また、光市議会議員を3期務めた経験も持ちます。
村﨑義正は、地元でも有数の富裕な家庭に生まれました。家長の祖父である村﨑梅二郎は、土建業と猿回しの親方を兼業しており、義正は幼少期から祖父の厳しい教育を受けました。毎日、仕事に明け暮れ、遊ぶ暇もない日々でしたが、その中で創意工夫を凝らし、困難を乗り越えるバイタリティと才覚を養っていきました。しかし、1948年に祖父が亡くなると、村﨑家は没落。兄は家出し、17歳だった義正は、妹一人と弟五人を養うため、非合法な行為にも手を染めながら一家を支えました。親族間の財産争いにも巻き込まれましたが、なんとか家と田畑を守り抜きました。
1960年代に入ると、村﨑義正は社会改革運動に積極的に参加するようになります。安保闘争の最中であった1960年には「部落解放同盟」に参加し、翌年には支部を結成。自民党系の同和団体「全日本同和会」の勢力を地元から一掃しました。また、「全国生活と健康を守る会連合会」を設立し、光市内の困窮者の救済を目指しました。部落解放同盟の分裂後は、日本共産党系の同和団体である全国部落解放運動連合会の山口県副委員長を務めるなど、社会運動家としての側面も強く持っていました。さらに、「全国生活と健康を守る会連合会」の理事も務めています。
1970年には、光市議会議員に初当選を果たします。自身の過去の逮捕歴を隠すことなく、当選を果たしたことから、その人物像が窺えます。3期務めた市議時代は日本共産党に所属し、保守系ではないにも関わらず、議会運営委員長を務めるなど、幅広い人望を集めました。議会では、その性格から「おこぜ」というあだ名で呼ばれていました。市議会議員時代は、自然保護運動にも積極的に取り組んでいました。
市議会議員に初当選したのと同じ1970年、俳優の小沢昭一がレコード『日本の放浪芸』シリーズの取材で光市を訪れたことがきっかけで、1963年に途絶えていた猿まわし芸の復活を決意します。民俗学者の宮本常一、民俗文化映像研究所の姫田忠義、猿まわし師の研究家である丸岡忠雄、そして末弟の村﨑修二の協力を得て、1977年12月2日に「周防猿まわしの会」を結成し、初代会長に就任しました。
1978年1月から猿の調教を開始しましたが、難航を極めました。同年7月には、四男の太郎とともに「最後の猿まわし師」重岡博美の妻、重岡フジ子に教えを請い、ようやく調教法を確立。同年9月の光市でのイベントで猿まわし芸を披露し、見事に復活を成し遂げました。現代の調教師が行っている、猿を地面に押し倒して背中を噛むという調教法は、日本モンキーセンターのサル学研究者である広瀬鎮との交流を通じて、村﨑が独自に考案したものです。かつての「たたき仕込み」と呼ばれる調教法よりも、猿に対する負担を軽減した画期的な方法でした。
1979年正月には、防府天満宮境内で自主公演を成功させ、自信を深めた「周防猿まわしの会」は、プロの芸能集団として活動することを決定します。村﨑は、猿まわし芸を経済的に自立させなければ、再び途絶えてしまうという危機感を持っていました。しかし、1981年4月、「伝統芸能の研究・継承」を主張する弟・修二と、彼に同調する若者たちが、芸猿を連れて「周防猿まわしの会」から離脱。村﨑は、自ら全国を探し回り、彼らの居場所を突き止めて猿を取り戻しました。修二のグループは、後に岩国市に拠点を定め、「猿舞座」を創設。力で抑えつけるのではなく、猿の自主性を尊重する「本仕込み」による猿まわし芸能の復活を目指しました。
1982年、村﨑は長年務めた光市議会議員を辞任し、猿まわしに専念します。その後、猿まわし芸のための常設劇場を設営したり、後継者の育成、猿まわしに関する執筆活動など、猿まわし芸の振興に尽力しました。1990年、脳血栓により死去しましたが、彼の遺志は現在も関係者によって受け継がれ、猿まわし芸の発展に貢献しています。息子たちも「周防猿まわしの会」や「日光さる軍団」などの運営に携わり、彼の意思を継いでいます。村﨑義正は、波乱に満ちた人生を送りながらも、猿まわし芸の復興に情熱を注ぎ、後世に大きな影響を与えた人物として記憶されています。
『怒りの砂 高州解放運動の歩み』(1977) 部落問題研究所出版部
『猿まわし復活 その調教と芸』(1980.4) 部落問題研究所出版部
『歩け!とべ!三平』(1982.8) 筑摩書房
『猿まわし上下ゆき』(1983.12) 筑摩書房
『猿まわし千年の旅』(1991.10) 築地書館
『砂と雷鳴 上下』(1992.11) 築地書館
『猿まわし通信』(1992) 周防猿まわしの会（自費出版）
村﨑義正『猿まわし復活』部落問題研究所出版部, 1980年
村﨑義正『歩け!とべ!三平』筑摩書房, 1982.8
村﨑義正『猿回し上下ゆき』筑摩書房、1983年
* 朝日新聞学芸部編集『戦後芸能史物語』朝日新聞社、1987年
生い立ちと試練
村﨑義正は、地元でも有数の富裕な家庭に生まれました。家長の祖父である村﨑梅二郎は、土建業と猿回しの親方を兼業しており、義正は幼少期から祖父の厳しい教育を受けました。毎日、仕事に明け暮れ、遊ぶ暇もない日々でしたが、その中で創意工夫を凝らし、困難を乗り越えるバイタリティと才覚を養っていきました。しかし、1948年に祖父が亡くなると、村﨑家は没落。兄は家出し、17歳だった義正は、妹一人と弟五人を養うため、非合法な行為にも手を染めながら一家を支えました。親族間の財産争いにも巻き込まれましたが、なんとか家と田畑を守り抜きました。
社会改革運動への参加
1960年代に入ると、村﨑義正は社会改革運動に積極的に参加するようになります。安保闘争の最中であった1960年には「部落解放同盟」に参加し、翌年には支部を結成。自民党系の同和団体「全日本同和会」の勢力を地元から一掃しました。また、「全国生活と健康を守る会連合会」を設立し、光市内の困窮者の救済を目指しました。部落解放同盟の分裂後は、日本共産党系の同和団体である全国部落解放運動連合会の山口県副委員長を務めるなど、社会運動家としての側面も強く持っていました。さらに、「全国生活と健康を守る会連合会」の理事も務めています。
市議会議員としての活動
1970年には、光市議会議員に初当選を果たします。自身の過去の逮捕歴を隠すことなく、当選を果たしたことから、その人物像が窺えます。3期務めた市議時代は日本共産党に所属し、保守系ではないにも関わらず、議会運営委員長を務めるなど、幅広い人望を集めました。議会では、その性格から「おこぜ」というあだ名で呼ばれていました。市議会議員時代は、自然保護運動にも積極的に取り組んでいました。
猿まわし芸の復活
市議会議員に初当選したのと同じ1970年、俳優の小沢昭一がレコード『日本の放浪芸』シリーズの取材で光市を訪れたことがきっかけで、1963年に途絶えていた猿まわし芸の復活を決意します。民俗学者の宮本常一、民俗文化映像研究所の姫田忠義、猿まわし師の研究家である丸岡忠雄、そして末弟の村﨑修二の協力を得て、1977年12月2日に「周防猿まわしの会」を結成し、初代会長に就任しました。
1978年1月から猿の調教を開始しましたが、難航を極めました。同年7月には、四男の太郎とともに「最後の猿まわし師」重岡博美の妻、重岡フジ子に教えを請い、ようやく調教法を確立。同年9月の光市でのイベントで猿まわし芸を披露し、見事に復活を成し遂げました。現代の調教師が行っている、猿を地面に押し倒して背中を噛むという調教法は、日本モンキーセンターのサル学研究者である広瀬鎮との交流を通じて、村﨑が独自に考案したものです。かつての「たたき仕込み」と呼ばれる調教法よりも、猿に対する負担を軽減した画期的な方法でした。
1979年正月には、防府天満宮境内で自主公演を成功させ、自信を深めた「周防猿まわしの会」は、プロの芸能集団として活動することを決定します。村﨑は、猿まわし芸を経済的に自立させなければ、再び途絶えてしまうという危機感を持っていました。しかし、1981年4月、「伝統芸能の研究・継承」を主張する弟・修二と、彼に同調する若者たちが、芸猿を連れて「周防猿まわしの会」から離脱。村﨑は、自ら全国を探し回り、彼らの居場所を突き止めて猿を取り戻しました。修二のグループは、後に岩国市に拠点を定め、「猿舞座」を創設。力で抑えつけるのではなく、猿の自主性を尊重する「本仕込み」による猿まわし芸能の復活を目指しました。
猿まわしへの専念
1982年、村﨑は長年務めた光市議会議員を辞任し、猿まわしに専念します。その後、猿まわし芸のための常設劇場を設営したり、後継者の育成、猿まわしに関する執筆活動など、猿まわし芸の振興に尽力しました。1990年、脳血栓により死去しましたが、彼の遺志は現在も関係者によって受け継がれ、猿まわし芸の発展に貢献しています。息子たちも「周防猿まわしの会」や「日光さる軍団」などの運営に携わり、彼の意思を継いでいます。村﨑義正は、波乱に満ちた人生を送りながらも、猿まわし芸の復興に情熱を注ぎ、後世に大きな影響を与えた人物として記憶されています。
著書
『怒りの砂 高州解放運動の歩み』(1977) 部落問題研究所出版部
『猿まわし復活 その調教と芸』(1980.4) 部落問題研究所出版部
『歩け!とべ!三平』(1982.8) 筑摩書房
『猿まわし上下ゆき』(1983.12) 筑摩書房
『猿まわし千年の旅』(1991.10) 築地書館
『砂と雷鳴 上下』(1992.11) 築地書館
『猿まわし通信』(1992) 周防猿まわしの会（自費出版）
参考書籍
村﨑義正『猿まわし復活』部落問題研究所出版部, 1980年
村﨑義正『歩け!とべ!三平』筑摩書房, 1982.8
村﨑義正『猿回し上下ゆき』筑摩書房、1983年
* 朝日新聞学芸部編集『戦後芸能史物語』朝日新聞社、1987年
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