来間泰男

来間 泰男（くりま やすお）

来間泰男氏は、1941年（昭和16年）7月28日に沖縄県那覇市で生を受けました。日本の研究者として、特に沖縄史学と農学の分野において顕著な業績を挙げており、沖縄国際大学の名誉教授を務めています。

その学問的経歴は、1965年（昭和40年）に宇都宮大学を卒業することから始まりました。卒業後、琉球政府の農林局にて約三年間、実務経験を積んだことは、その後の農業や行政に関する研究の基礎となりました。1970年（昭和45年）には、再び宇都宮大学に戻り、大学院農学研究科の修士課程を修了し、専門性をさらに深めました。

同年、沖縄に新たに開学した国際大学の講師として教壇に立ちました。1972年（昭和47年）に国際大学と沖縄大学が統合されて沖縄国際大学が設立されると、引き続き同学の講師として勤務しました。その後、1974年（昭和49年）に助教授、1982年（昭和57年）には教授へと昇任し、沖縄国際大学において長年にわたり、沖縄の歴史、経済、農業に関する教育と研究活動に尽力しました。2010年（平成22年）に大学を退職する際には、その多岐にわたる功績が称えられ、名誉教授の称号が授与されました。

来間氏の研究は、沖縄が経験した独特な歴史的背景と、それが現代の社会・経済に及ぼす影響を深く掘り下げています。特に、沖縄の農林水産行政史に関する研究は、戦後の混乱期から復興、振興へと至る過程を丹念に追跡したもので、1991年（平成3年）には、その集大成である著書『沖縄県農林水産行政史 第1・2巻』（農林統計協会）が九州農業経済学会学術賞を受賞するという高い評価を受けました。

また、沖縄経済の構造的な問題にも鋭い視線を向け、多くの論考を発表しています。1998年（平成10年）に刊行された『沖縄経済の幻想と現実』（日本経済評論社）は、沖縄経済の実態を冷静に分析し、従来の議論に一石を投じる内容として注目されました。この著作は、基地経済への依存や公共事業への過度な依存がもたらす経済の歪みを指摘し、伊波普猷賞を受賞するなど、その学術的価値と社会への提言性が広く認められています。

来間氏の著作活動は、初期の農業経済学研究から出発しつつ、徐々に歴史研究へとその領域を広げていった軌跡を示しています。例えば、『沖縄の農業 歴史のなかで考える』（1979年）や『沖縄経済論批判』（1990年）といった初期の代表作は、沖縄の第一次産業や経済構造への深い洞察を示しています。近年では、「シリーズ沖縄史を読み解く」（日本経済評論社）と題された一連の著作において、琉球・沖縄の古代から王国成立に至るまでの歴史を多角的に探求しています。このシリーズでは、稲作の起源や伝来、古代における日本と琉球の関係、グスクと按司の出現、そして琉球王国の成立過程といった重要なテーマが詳細に論じられており、沖縄史研究に新たな視点を提供しています。

さらに、現代沖縄社会が抱える喫緊の課題である米軍基地問題についても、経済学的な視点からアプローチしています。著書『沖縄の米軍基地と軍用地料』（榕樹書林、2012年）では、広大な面積を占める米軍基地と、それに伴う軍用地料が沖縄の社会経済に与える影響や、その歴史的背景について考察を深めています。共著や編著においても、『戦後沖縄の歴史』（1971年）や、日本農業、沖縄農業の現状と課題に関するものなど、幅広いテーマで研究成果を発表しており、沖縄研究の発展に不可欠な貢献を果たしています。

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