按司

按司（アジ、アンジ）とは

按司（あじ、または、あんじ）は、琉球諸島および奄美群島に存在した称号、位階の一つです。琉球・奄美に王制が確立される以前は、グスク（城）やハラ、モリ（盛）を拠点とする地方豪族の首長やその家族の称号として用いられました。特に奄美では「アジ」と片仮名で表記されることがあります。

王制が整った後は、王族の中で王子に次ぐ地位となり、王子や按司の長男がその位を継承しました。琉球の王制では、国王家の分家が按司家と呼ばれるようになり、これは日本の宮家に相当する存在でした。また、按司は王妃や未婚の王女、王子妃などの称号としても用いられました。古くは王号の代わりとして、また地方の支配者の称号として用いられていました。

歴史

グスク時代（12世紀～14世紀）

按司は、アジ、アンジ、アズなどと発音され、琉球諸島各地の方言によって変化しました。沖縄本島南部ではアジと発音し、先島地方ではアズと発音します。アジは、もともと主（あるじ）からの転訛であるという説があります（伊波普猷説）。漢字の「按司」は当て字です。

『中山世譜』などの史書によると、昔、女神と男神が琉球の島々を創造したとされています。その後、天帝子という人物が琉球に住み着き、三男二女をもうけました。長男は天孫といい、国君（王）の始祖となり、次男は按司（諸侯）の始祖となり、三男は百姓（平民）の始祖となったと伝えられています。長男・天孫の家系は、25代・17802年間続いたとされていますが、これは神話的な伝承です。

歴史的には、按司は農耕社会が成立したグスク時代の12世紀頃から琉球諸島、奄美群島の各地に現れました。グスク（城）などを拠点とする地方豪族の首長やその家族など、貴人の称号として使われました。

元来、琉球には王号や王子号がなく、その代わりに按司（あじ、あんじ）の称号が用いられていました。按司は、「世の主（よのぬし）」、「世主（せいしゅ、よぬし）」などとも呼ばれ、国王、領主、豪族などに近い存在でした。

琉球で正式な王号が使用されるようになったのは、明に朝貢して冊封を受けて以降と考えられています。1404年、察度王統の二代・武寧の時代に、明の永楽帝が冊封使を派遣し、武寧を中山王に冊封しました。これが琉球最初の冊封です。後世の史書では、察度王統以前にあったとされる舜天王統や英祖王統の歴代君主にも王号が用いられていますが、これは史書編纂の際に、王に相当する人物ということで王号が用いられたと推測されます。実際には、某按司と称していたと思われます。同様に、王子号の使用も王号以降のことです。

第一尚氏王統（1406年～1469年）

1406年、佐敷按司・巴志（後の尚巴志王）は武寧王を滅ぼし、父・思紹を中山王の位に就かせました。翌年、思紹は武寧王の世子（世継ぎ）と偽って明へ使者を派遣し、武寧王の死を報告すると、正式に王爵を受け継ぎました。これが第一尚氏王統の始まりです。思紹が亡くなると、巴志が1422年に中山王に即位しました。巴志は1429年に南山王・他魯毎を滅ぼし、琉球を統一しました。そして、翌年には明から尚姓を賜り、尚巴志と名乗りました。

第一尚氏王統下では、按司は王号に次ぐ称号として、地方豪族の首長の称号などに用いられました。また、王の子の一部も按司を称しました。

第二尚氏王統（1470年～1879年）

第二尚氏王統第三代国王・尚真王は、中央集権化政策の一環として、各地に住む按司を首里に集住させる制度を導入しました。按司の代わりには、按司掟（あじうっち）と呼ばれる代官を派遣して地方の政務に当たらせました。この時から、按司は地方豪族の首長から首里に住む都市貴族へと性格を変貌させました。

その後、按司は国王、王子に次ぐ身分を表す称号となっていきました。しかし、当初は王子の称号はまだ用いられておらず、王の子も按司と呼ばれていたようです。

時代が経つにつれて、地方豪族であった按司の子孫は、より低い階級である親方（ウェーカタ）へと降格していき、代わって按司階級は王族が独占するようになりました。王子は一代限りとし、王子や按司の長男（嗣子）が按司を継ぎました。その結果、按司家は国王家の分家という位置づけになり、日本の宮家のような存在になりました。

18世紀に入ると、程順則らによって「琉球国中山王府官制」が制定され、九品十八階の位階制度が定められました。これによって、按司は位階の一つとして明確に位置づけられ、王子と共に九品十八階のさらに上位に位置し、最高品位の無品とされました。

按司の家格は一定ではなく、歴代当主に功績が少なければ、七代で士族へと降格させられました。また、按司に特別な功績があった場合には、王子位に昇格することもありました。

王子や按司が住む邸宅は御殿（ウドゥン）と呼ばれ、これがそのまま王子や按司の尊称としても用いられました。また、王子、按司は一間切を采地（領地）として与えられ、按司地頭と呼ばれました。

王国末期の按司家

王国末期の按司家は26家を数えました。

小禄按司（小禄御殿）
読谷山按司（読谷山御殿）
義村按司（義村御殿）
与那城按司（与那城御殿）
豊見城按司（豊見城御殿）
大里按司（大里御殿）
浦添按司（浦添御殿）
玉川按司（玉川御殿）
国頭按司（国頭御殿）
大村按司（大村御殿）
本部按司（本部御殿）
美里按司（美里御殿）
羽地按司（羽地御殿）
名護按司（名護御殿）
金武按司（金武御殿）
摩文仁按司（摩文仁御殿）
仲里按司（仲里御殿）
護得久按司（護得久御殿）
大宜見按司（大宜見御殿）
具志頭按司（具志頭御殿）
真壁按司（真壁御殿）
玉城按司（玉城御殿）
具志川按司（具志川御殿）
高嶺按司（高嶺御殿）
久志按司（久志御殿）
勝連按司（勝連御殿）

按司の呼び方

按司は、通常その采地とする間切名を冠して呼ばれます。例えば、名護按司（采地・名護間切）、高嶺按司（采地・高嶺間切）のように呼ばれます。間切名で呼ばれない例外もあります。

女性の場合は、接尾敬称の加那志（がなし）を付けて、某按司加那志と称しました。例えば、王妃は佐敷間切を領したので、佐敷按司加那志と呼ばれました。王女の場合、未婚のときは童名を冠して、そのまま思戸金按司加那志というふうに称しました。結婚する時は、王家直領たる真和志、南風原、西原の三間切から適当な地名を選んで、例えば、内間按司加那志（西原間切・内間村より）というふうに称しました。嫁ぐと、既婚王女の称号である翁主（おうしゅ）をつけて、内間翁主と称しました。また、王子（按司から昇格した従王子を含む）の妃も、按司加那志と呼ばれました。

按司は、家来や身分の低い者からは御前（ウメー）という敬称で呼ばれ、子供たちなど身内から按司前（アジメー）と呼ばれました。按司家を指す場合は、御殿を付けて伊江御殿というふうに呼んだのは、前述の通りです。

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