東ハンガリー王国

東ハンガリー王国：分裂時代のハンガリー東部

東ハンガリー王国は、16世紀のハンガリー王国分裂期に存在した、サポヤイ家による統治下の国家です。厳密には、当時の人々が「東ハンガリー王国」という国号を使用していたわけではなく、正統なハンガリー王国を自認していました。

建国とヤーノシュ1世の治世

1526年、モハーチの戦いでハンガリー王ラヨシュ2世がオスマン帝国に敗北し、ヤゲロー朝が断絶。ハンガリー王位を巡る争いが勃発します。オーストリア大公フェルディナーンド1世も王位を主張する中、ハンガリー貴族は国内有数の領主であったサポヤイ・ヤーノシュをヤーノシュ1世としてハンガリー王に選出しました。

ヤーノシュ1世はオスマン帝国の支援を受け、ハプスブルク家と対立。トランシルヴァニアとハンガリー平原東部を確保し、フェルディナーンド1世はハンガリー平原西部などを支配しました。1538年のナジヴァーラド条約で両者の勢力圏が確定され、ヤーノシュ1世の後継者としてフェルディナーンド1世が指名され、東西ハンガリーの統一が定められました。

ヤーノシュ2世の時代と王国の変容

1540年、ヤーノシュ1世の死の直前に息子ヤーノシュ・ジグモンド（後のヤーノシュ2世）が誕生。サポヤイ家を支持する貴族たちは、幼いヤーノシュ2世をハンガリー王に即位させ、ナジヴァーラド条約は破棄されました。ヤーノシュ2世の治世は、母イザベラ・ヤギェロンカとフラーテル・ジェルジによる摂政政治が中心となり、オスマン帝国の保護を受けました。

1541年、フェルディナーンド1世が東ハンガリーに侵攻するも、オスマン帝国の介入により撃退されます。しかし、オスマン帝国はブダを占領し、ハンガリーはハプスブルク領、オスマン領、東ハンガリー王国の3つに分裂しました。

東ハンガリー王国は、マラムレシュ、サボルチ、サトマーレなど、広大な領域を支配しました。各地の有力貴族は自治権を持ち、サポヤイ家に協力しました。フラーテルは統治機構を再編し、ジュラフェヘールヴァールに新たな宮廷を置きました。

ハプスブルク家の介入と騒乱

摂政フラーテルは、ハプスブルク家との連携を模索し、イザベラにニールバートア条約を結ばせ、トランシルヴァニアをフェルディナーンド1世に譲渡しようとしました。しかし、イザベラの反発により内戦が勃発。フラーテルはハプスブルク家の軍勢を率いてジュラフェヘールヴァールを包囲しました。1551年には、フラーテルがオスマン帝国との内通を疑われ、ハプスブルク家によって暗殺され、ヤーノシュ2世とイザベラはポーランドへ亡命しました。

この混乱に乗じて、オスマン帝国がハンガリーに再侵攻し、ヴェスプレーム、ソルノクなどを占領。旧ハンガリー王国の中部を併合しました。

ヤーノシュ2世の復帰とシュパイアー条約

1556年、トランシルヴァニアの貴族はヤーノシュ2世を呼び戻し、トランシルヴァニア公・ハンガリー王に再選出しました。1568年には、トゥルダの勅令を発布し、広範な信教の自由を認めました。

1570年、ヤーノシュ2世はハプスブルク家のミクシャ1世とシュパイアー条約を締結。ヤーノシュ2世はハンガリー王位を放棄し、ミクシャ1世を唯一のハンガリー王として承認しました。その代償として、ヤーノシュ2世は「トランシルヴァニアおよびハンガリー王国の一部（パルティウム）の公」として認められ、東ハンガリー王国はトランシルヴァニア公国へと改編されました。

東ハンガリー王国の終焉とその後

シュパイアー条約は、統一ハンガリーの存在を裏付けるものであり、トランシルヴァニア公国はハプスブルク家の影響下から離れ、再びオスマン帝国に貢納するようになりました。これにより、オーストリアとオスマン帝国の対立に、トランシルヴァニア公国の宗主権を巡る争いが加わることとなりました。

もう一度検索