東京市内電車値上げ反対運動

東京市内電車値上げ反対運動

東京市内電車値上げ反対運動は、明治時代の1906年と1908年に東京市で発生した社会運動です。特に1906年の運動は、日本社会主義者による最初の示威運動として知られています。この運動は、当時の社会情勢や市民の意識を反映し、後の社会運動に大きな影響を与えました。

運動の背景

1906年3月1日、東京市内の東京市街鉄道、東京電車鉄道、東京電気鉄道の3社（後の都電の前身）が、運賃を3銭から一律5銭に値上げする申請を行いました。これに対し、結成間もない日本社会党や国家社会党などが中心となり、反対運動が展開されました。この運動には、田川大吉郎のような自由主義者や一般市民も参加し、大きな広がりを見せました。

1906年の運動

3月11日、反対集会で堺利彦が示威運動を主張した際、山路愛山が制止しようとしましたが、逆に聴衆によって壇上から引きずり下ろされるという出来事が起こりました。その後、約150名の群衆が東京市街鉄道会社前に集まりデモを行いました。この勢いを受けて、社会党は3月15日に再び市民大会を開催することを決定しました。

3月15日、田川らが主催する市民大会後、鉄道会社や変電所、市庁舎を巡るデモが暴徒化し、電車焼き討ちや新聞社襲撃といった事態に発展しました（電車事件）。岡千代彦の呼びかけに応じた群衆は、日比谷公園から電車会社へ投石を始め、工事現場の労働者も加わって電車を立ち往生させ、市庁舎へ投石を行いました。労働者たちは、社会党員らが躊躇するほど闘争的な姿勢を示し、約1000人の暴徒が投石や線路占拠などの行動をエスカレートさせ、夕方には日比谷や外濠で7両の電車が焼き討ちされました。警察は騎馬警官隊を投入しましたが、ツルハシで武装した労働者らに阻まれ、最終的には軍隊が動員され鎮圧されました。この暴動で、西川光二郎、岡千代彦、大杉栄ら日本社会党員10名が逮捕されました。しかし、当局は電鉄会社の申請を却下したため、運動は一旦沈静化しました。

運動の再燃と決着

同年6月、3社が合併し東京鉄道となり、再び値上げを申請したため、日本社会党と国家社会党は再び反対運動を開始しました。8月には運賃が4銭に値上げされましたが、橋本哲哉は「運動の規模は前回に及ばなかった」と述べています。9月には運動が分裂し沈静化しましたが、『東京都交通局百年史』では、9月5日に日比谷公園で行われた大会に1万人以上が集まり、終了後に参加者が電車を襲撃したと記録しています。9月12日には、運賃改定が実施されました。

裁判とその後

逮捕された社会党員の裁判では、布施辰治が弁護を担当し、一審で全員が無罪となりました。しかし、控訴審では有罪判決が出て、最終的に西川は禁錮2年、岡、樋口らは禁錮1年6ヶ月の実刑判決を受けました。大杉は執行猶予付き判決を受け、深尾は拘留後に保釈されました。

1908年12月、東京市会は東京鉄道の値上げ申請を再び可決したため、反対運動が再燃しました。反政友会系の市議や区議を中心に、運動は翌1909年まで活発化しましたが、最終的には内務省が値上げ申請を却下し、運動は終息しました。

運動の意義

東京市内電車値上げ反対運動は、日本の社会運動史における重要な出来事であり、市民の政治意識や社会運動への関心を高める上で大きな役割を果たしました。特に1906年の運動は、労働者や一般市民が団結し、社会変革を求める強い意志を示した点で、その後の社会運動に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

参考文献

浅羽通明『アナーキズム』筑摩書房、2004年。
荻野富士夫「大杉栄」『日本大百科全書』小学館、1994年。
塩田正兵衛(代表編集)『日本社会運動人名辞典』小学館、1994年。
東京都交通局『東京都交通局百年史』東京都交通局、2012年。
橋本哲哉「東京市電車値上反対運動」『世界大百科事典』講談社、2014年。
法政大学大原社会問題研究所「東京市内電車値上げ反対運動［社］1906．3．6」『新版社会・労働運動大年表』労働旬報社、1995年。
法政大学大原社会問題研究所「東京市内電車値上げ反対運動［社］1909．1.12」『新版社会・労働運動大年表』労働旬報社、1995年。
「東京市電値上げ反対市民大会」『誰でも読める日本近代史年表』吉川弘文館、2008年。
* 吉川守圀「荊逆星霜史」、岸本英太郎編『荊逆星霜史』青木書店〈資料日本社會運動思想史〉、1957年。

もう一度検索