東伏見慈洽

東伏見慈洽：皇族から僧侶へ、波瀾万丈の人生

東伏見慈洽（ひがしふしみ じごう）は、明治43年（1910年）に久邇宮邦彦王の第三王子として誕生しました。旧名は邦英王（くにひでおう）。香淳皇后の弟であり、上皇明仁、今上天皇徳仁とはそれぞれ甥、大甥にあたります。幼少期は東伏見宮依仁親王夫妻に深い愛情を受けて育ちました。東伏見宮には実子がなく、邦英王は事実上、宮家の後継者として扱われていましたが、当時の皇室典範では養子が認められていなかったため、皇族としての継承は叶いませんでした。


学習院高等科、京都帝国大学文学部史学科を卒業後、同大学で古代美術史の講師を務めました。多才な人物でもあり、音楽にも造詣が深く、ピアノ演奏の才能も持ち合わせていました。特にハイドンのピアノ協奏曲ニ長調の世界初録音を担当したことは、音楽史に残る偉業と言えます。


昭和6年（1931年）、東伏見宮家の祭祀を継承するため臣籍降下し、東伏見姓を賜り伯爵となりました。同時に、華族に列せられ、貴族院議員の資格を失いました。この年、美術に関する著書『宝雲抄』を刊行しています。


その後、昭和20年（1945年）に京都の青蓮院で得度。昭和27年（1952年）には善光寺大勧進の住職、昭和28年（1953年）には青蓮院門跡の門主となり、法名「慈洽」を名乗りました。長年に渡り青蓮院門跡門主として、仏教界に貢献しました。昭和31年（1956年）には「飛鳥時代の芸術研究」で京都大学より文学博士号を授与されています。


昭和60年（1985年）からは京都仏教会会長を務め、古都税問題では、古都税の創設に反対する立場として、京都仏教会を率いて運動を展開しました。寺院の拝観停止や行政訴訟に至るなど、激しく対立したこの問題に対し、慈洽は粘り強く交渉し、問題の解決に尽力しました。


平成7年（1995年）には喉頭癌の手術を受け、声を失うという困難を経験します。それでも、青蓮院門主の地位を子息に継承させるため、天台宗との間で激しい対立を繰り広げ、最終的に世襲を認めさせました。


平成16年（2004年）に次男の慈晃に門主の地位を譲り、自身は名誉門主に就任。平成21年（2009年）に妻の保子と死別。平成26年（2014年）1月1日、103歳で永眠しました。臣籍降下した元皇族の中で、最長寿を記録しました。


慈洽の人生は、皇族、華族、そして僧侶という、異なる三つの立場を経験した、まさに波乱に満ちたものでした。それぞれの立場において、多大な功績を残し、日本の歴史に名を刻んだ人物と言えるでしょう。音楽、美術、仏教、そして政治的活動にも関わり、その多様な才能と深い知識、そして強い信念によって、激動の時代を生き抜いた慈洽の生涯は、後世に多くの示唆を与え続けるでしょう。彼の功績は、これからも語り継がれていくことでしょう。

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