勧進

勧進とは

勧進（かんじん）とは、仏教において、寺院の建立や修繕などのために、人々から寄付を募る行為です。元来は、僧侶が人々に仏法を説き、善行を促すことで、人々を仏道に導くことを目的としていました。しかし、時代が下るにつれて、寄付を集めるための手段として、興行を催し、その観覧料を寄付に充てるという方法も広く用いられるようになりました。

中世においては、橋や道路の修理・整備、官寺の建設や修造など、本来は朝廷や地方行政機関が行うべき公共事業も、勧進によって行われるようになりました。勧進を行う者は、勧進帳と呼ばれる趣意書を携え、各地を遍歴したり、橋のたもとや寺社の門前などで寄付を募りました。

勧進聖らの活動

初期の勧進は、勧進聖（かんじんひじり）、勧進僧（かんじんそう）、勧進上人（かんじんしょうにん）と呼ばれる僧侶によって担われていました。彼らは各地を巡りながら説法を行い、人々からお金や米などの寄付を受けました。集められた寄付は、必要経費を除き、事業の目的に充てられました。奈良時代の行基や、平安時代の空也、行円などが、勧進聖として著名です。また、尼僧の中にも勧進活動を行う者がおり、勧進比丘尼（かんじんびくに）と呼ばれていました。しかし、勧進比丘尼の中には、巫女的な活動を行う者や、遊女のような行為をする者もいたため、純粋な尼僧とは言い難い者もいました。

勧進の普及

勧進が広く庶民に受け入れられ、社会に浸透したのは、12世紀以降のことです。1141年には、大和国の金峯山寺の鐘が勧進僧によって作られ、宇治橋や勢多橋といった橋も、12世紀に入ると勧進によって維持されるようになりました。また、近江関寺の再興も、1179年に勧進によって行われました。

東大寺大勧進職

1180年、平氏による南都焼討によって東大寺が焼失すると、後白河法皇は東大寺再建のために勧進活動を始めました。1181年には、重源が大勧進職に任命され、勧進活動の責任者となりました。重源は、勧進聖や技術者、職人などを組織し、資金を集めて東大寺の再建に尽力しました。重源は、自らも後白河法皇や源頼朝などに寄付を依頼し、西行には奥羽への砂金勧進を依頼しました。重源らの尽力によって東大寺は再建されました。その後も、東大寺の再建や維持のために大勧進職が設置され、栄西や円爾、忍性などがその任を務めました。

勧進職の普及とその変質

東大寺の再建を機に、他の寺院でも勧進職が設けられるようになり、有力寺院の再建には勧進職を任命することが慣例となりました。特に鎌倉時代に律宗が再興されると、律宗の僧侶が勧進職に任じられることが多くなりました。しかし、時代が下るにつれて、朝廷や幕府が勧進職に領地を与え、その収益から再建費用を捻出させるようになると、勧進職は利権化し、寺内での争いや、収益の私的流用などの問題も生じました。

また、再建のために政治交渉を重視する僧侶も現れ、勧進職と勧進聖らの関係が希薄になることもありました。勧進聖の中には、物乞いのような行為をする者も現れ、社会的な蔑視を受けるようになりました。その後、この「勧進」のスタイルを基にした様々な「勧進○○」と称されるものが出現することとなりました。

勧進帳

勧進帳（かんじんちょう）とは、勧進の目的を記した趣意書のことです。勧進の目的、念仏や誦経の功徳、寄付による功徳などが書かれており、勧進聖は、これを用いて人々に寄付を呼びかけました。勧進帳と対になるものとして、寄付の実績を記した奉加帳があります。

歌舞伎の演目『勧進帳』は、武蔵坊弁慶が勧進帳を読み上げる場面に由来しています。

勧進船

勧進船（かんじんぶね）とは、中世に勧進を行う僧侶らが乗船した船のことです。水上交通の要所で、船内で説法などを行い、寄付を募りました。後に、芸能を行う者も乗船するようになり、水上演芸船の様相を呈するものもありました。

勧進興行

勧進興行には、以下のようなものがあります。

勧進平家: 琵琶法師が『平家物語』を語り、寺社の改修費用などを集める興行です。全200句を語るのに90時間から120時間程度かかったとされています。
勧進相撲: 神社仏閣の再興費用を捻出するために始まった興行です。各地の土地相撲が始めた営利性の強い興行で、便宜上「勧進」の名を被せたという側面があります。江戸時代の町人文化の重要な要素を占め、近代以降も伝統文化として存続しています。

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