東北太平記

東北太平記

『東北太平記』は、室町時代中期に下北半島で発生した蠣崎蔵人の乱を題材とした軍記物語で、江戸時代初期に成立しました。別名『北部御陣日記』または『田名部御陣日記』とも呼ばれています。

内容

物語は、後南朝事件とも呼ばれる出来事を背景に展開します。正平3年（1348年）、護良親王の王子である八幡丸、後の良尹王が、根城南部氏の当主信政によって「北部王家」として擁立されました。その後、尹義、義祥、義邦、義純と北部王家は続きます。南北朝合一後も足利氏に服属せず、南朝再興を目指しますが、5代目の義純に至り、上洛して将軍足利義量に謁見し、従五位上・民部大輔に任官されます。

その後、義純と3代義祥との対立、文安5年（1448年）の義純父子の遭難死が発生し、蛎崎城主の蛎崎蔵人信純が義祥を擁立して養子となり、北部王家の実権を掌握します。康正2年（1456年）、信純は王家を担ぎ、南朝再興を名目に兵を挙げようとしますが、義純父子を殺害していたことが発覚。根城南部氏（八戸氏）の南部政経が中央の許可を得て、蛎崎の地を攻め、信純を滅ぼします。この一連の出来事が『東北太平記』に詳細に記述されています。

成立と作者

作者は福士長俊。八戸氏（後の遠野南部家）の旧家臣で、江戸時代初期には秋田で暮らしていました。彼は、残されていた陣中日記や捕らわれた蛎崎方軍奉行の陣中記述、そして下北の大平の旧家の古記録を基に、現地調査を行った上で本書を書き記したとされています。日記には91枚の中世文書が使用されており、事件の内容を詳細に伝えていますが、これらの文書は現代には一枚も伝わっていません。

『東北太平記』には、他の文献には見られない事柄が多く記されており、下北地方の歴史を研究する上で重要な史料となっていますが、史料としての信憑性については検討が必要です。

書籍

原本は遠野南部家に秘蔵されてきましたが、明治18年（1885年）に鍋倉神社の社殿奉建を記念して写本が作成されました。遠野郷土研究会が1936年に刊行した『東北太平記』は、国立国会図書館に所蔵され、公開されています。

参考文献

福士長俊『東北太平記』遠野郷土研究会、1936年。
みちのく双書：第3集『東北太平記：北部御陣日記』青森県文化財保護協会、1957年。
工藤睦男『大畑町史』青森県下北郡大畑町（現むつ市）、1992年2月1日。
川内町史編さん委員会『川内町史 原始・古代 中世 近世 編』青森県下北郡川内町（現むつ市）、2005年3月13日。
岩手放送『新版 岩手百科事典』岩手放送株式会社、1988年10月15日。

関連項目

蠣崎氏

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