東山海戦

東山海戦（東山八六海戦、八六海戦）

1965年8月6日、中国福建省漳州市東山島沖で発生した、中華民国海軍と中国人民解放軍海軍との間の海戦です。この海戦は、国共内戦後の両勢力間の緊張関係を象徴する出来事の一つであり、その後の両岸関係に大きな影響を与えました。

背景

1949年の国共内戦で中国大陸から台湾へ撤退した中華民国政府は、蔣介石総統の下、大陸への反攻を企図していました。1960年代には、大規模な軍事侵攻計画「国光計画」を立案しますが、アメリカの反対により実行には至りませんでした。その後、中華民国政府は小規模な武装部隊を中国大陸沿岸に潜入させ、騒乱を引き起こす「政治上陸」作戦「海威計画」へと戦略を転換しました。この作戦には、武装浸透、水陸両用突撃、海上襲撃などが含まれていました。

一方、中国人民解放軍は、これらの襲撃に対して反撃を行い、1962年下半期から1966年末までに、35組の海上武装特務を殲滅し、128人を殺傷、294人を捕虜にするなどの戦果を上げています。また、特務輸送船や工作船も多数撃沈、鹵獲しています。

海戦の経過

1965年8月5日、中華民国海軍の『剣門』（旗艦）と『章江』は、陸軍工作員7名を乗せ、台湾の左営港を出港。中国大陸への潜入を試みました。これに対し、中国人民解放軍海軍南海艦隊は、P-4型魚雷艇6隻と護衛艇4隻を待機させました。

翌6日未明、護衛艇隊はレーダーで『剣門』と『章江』を発見し、攻撃を開始しました。両軍は交戦し、『章江』は護衛艇隊の包囲攻撃を受け、沈没しました。その後、護衛艇隊は『剣門』への攻撃を続行。魚雷艇隊も到着し、『剣門』に魚雷攻撃を加えました。『剣門』も反撃しましたが、最終的には沈没。この海戦で、中華民国海軍は第二巡防艦隊司令の胡嘉恒少将を含む199名の将兵が戦死、33名が捕虜となりました。工作員のうち1名のみが外国商船に救助され、台湾へ帰還しました。

海戦の結果と影響

海戦後、中国人民解放軍南海艦隊の参加部隊は国防部から表彰され、特に611艇と119魚雷艇分隊はそれぞれ「海上英雄艇」と「英雄快速艇」の称号を授与されました。

一方、この海戦での敗北は、中華民国海軍総司令の劉広凱の引責辞任と国防部の人事刷新につながりました。また、蔣介石総統も国光計画に関する作戦会議への参加回数が減少し、国光作業室は作戦計画室に改編され、小規模な襲撃作戦や特殊作戦の指導組織となりました。

さらに、同年11月には烏坵沖でも海戦が発生し、国民党海軍の敷設艇が人民解放軍の魚雷艇により撃沈されました。これらの敗北により、中華民国政府は大陸反攻を事実上放棄せざるを得なくなりました。

その後も、中華民国軍は小規模な襲撃作戦を継続しましたが、1967年から1976年までの10年間、福建省沿岸で10回の襲撃活動を行ったものの、いずれも人民解放軍の反撃により壊滅的な打撃を受けました。

この海戦は、中華民国の大陸反攻戦略の転換点となり、その後の両岸関係に大きな影響を与えました。また、冷戦時代における台湾海峡の緊張状態を象徴する出来事としても歴史に刻まれています。

注釈

この海戦は、中華民国側からは「八六海戦」と呼ばれることがあります。
海戦で沈没した『剣門』と『章江』は、いずれも旧アメリカ海軍の艦艇でした。

参考文献

平松茂雄『甦る中国海軍』勁草書房、1991、ISBN 4-326-30072-8
松田康博「蔣介石と大陸反攻-1960年代の対共産党軍事闘争の展開と終焉-」『蔣介石研究-政治、戦争、日本-』東方書店、2013、ISBN 978-4-497-21229-0

関連項目

国共内戦
台湾海峡危機
国光計画
烏坵海戦

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