国光計画

国光計画：台湾国民党政権による幻の大陸反攻

国光計画は、1950年代から1970年代にかけて、中華民国（台湾）の中国国民党政権が計画した、中国大陸を支配する中華人民共和国への反攻作戦です。この計画は、台湾が中国本土への影響力を回復しようとした冷戦時代の遺物と言えるでしょう。

計画の背景

1949年、蔣介石率いる中国国民党政権は国共内戦に敗れ、台湾へと撤退しました。しかし、国民党政権は本土奪還の野望を捨てず、機会をうかがっていました。1950年代後半、中国共産党による大躍進政策の失敗や中ソ対立の深刻化といった状況を捉え、国民党政権は大陸反攻の好機到来と判断しました。政府と軍に大陸反攻のための組織を設置し、具体的な作戦計画の策定に着手したのです。

蔣介石は、大躍進政策による人民公社を「人類史上空前の奴隷制度」と非難し、1959年のチベット動乱に際しては「チベット同胞を救う」と宣言するなど、中国共産党政権への対決姿勢を鮮明にしました。中国大陸における飢餓やチベットの惨状が明らかになるにつれ、蔣介石は「救済」という使命感に燃え、大陸反攻に傾倒していきました。

計画の立案と内容

大陸反攻の具体的な検討は1952年頃から始まり、1955年頃に長期計画化されました。1960年12月には、翌年の大陸解放を目標とする計画が決定され、1961年4月には行政院に国光作業室が設置され、国光計画が正式に始動しました。

国光計画では、まず福建省や広東省の沿岸部に対して、パラシュート部隊や海上突撃部隊による特殊作戦を展開し、大陸住民の蜂起を誘発することを目指しました。次に、空挺部隊と海上部隊による奇襲作戦で橋頭堡を確保し、最終段階として上陸作戦によって華南の内陸部へ侵攻するという三段階の構想が立てられました。しかし、人民解放軍との兵力差は、民衆蜂起によって解消されるという楽観的な見通しに基づいていました。

中華人民共和国の対応

中国共産党も国民党軍の動きを警戒し、1962年5月末から動員作戦の準備を開始しました。6月には「蔣介石の軍隊が大規模な上陸作戦を行う可能性がある」と警告を発し、福建前線への部隊移動と住民の避難を実施しました。この動員は朝鮮戦争以来最大規模のものとなり、多数の兵員、戦闘機、舟艇が配備されました。

米国の介入と計画の頓挫

国光計画の実行には、アメリカの支援が不可欠でしたが、ケネディ政権は蔣介石の大陸反攻が第三次世界大戦を引き起こす可能性を危惧し、支援を拒否しました。アメリカは、国民党政権が単独で無謀な反攻作戦を実行することを懸念し、外交ルートを通じて中国側にアメリカが反攻を支持しないことを伝えました。

1962年6月、彭孟緝参謀総長は大陸反攻の延期を決定しました。その後、アメリカは米華相互防衛条約を盾に、国民党政権の軍事行動を牽制し、大規模な大陸反攻作戦は事実上不可能となりました。国民党政権は、小型モーターボートによる中国大陸沿岸への襲撃（海威計画）に移行せざるを得ませんでした。

計画の終焉と台湾の変容

1965年、東山海戦と烏坵海戦での敗北により、国民党政権は大陸反攻を事実上放棄しました。その後もアメリカに大陸反攻を提案しましたが、拒否されています。

国民党政権が期待した中国内部の反乱は、文化大革命という予想外の形で勃発しました。しかし、それは国民党政権の復権には繋がりませんでした。1972年7月20日、国光計画室は正式に撤廃され、蔣介石の死後、息子の蔣経国が権力を引き継ぎ、台湾の経済発展に軸足を移しました。そして、国民党政権は大陸における主権回復を諦め、台湾と周辺島嶼のみを統治する独立国家として再出発することになったのです。

国光計画は、冷戦下の複雑な国際情勢と、台湾海峡を隔てた二つの中国の対立が生み出した幻影でした。その挫折は、台湾が独自の道を歩むきっかけとなったと言えるでしょう。

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