東方三博士の礼拝 (ルーベンス、アントウェルペン王立美術館)

『東方三博士の礼拝』

ピーテル・パウル・ルーベンスの『東方三博士の礼拝』は、1624年から1625年にかけて制作された油彩作品です。この絵画は、『新約聖書』のマタイによる福音書2章に記された東方三博士の礼拝を主題としており、バロック美術の力強い表現と劇的な構成が特徴です。

制作の背景

この作品は、アントウェルペンの聖ミカエル修道院からの依頼で、修道院設立500周年を記念する主祭壇画として制作されました。聖ミカエル修道院は、12世紀に設立されたプレモントレ会修道院で、ネーデルラントにおける重要な宗教施設でした。しかし、16世紀には災害や宗教的混乱に悩まされ、1620年には大規模な火災が発生しました。修道院長マタイス・ファン・イールセルは、この修復と記念事業の一環として、ルーベンスに祭壇画制作を依頼しました。

主題

マタイによる福音書によると、イエス・キリストの誕生時、東方で星を見た三博士が、ユダヤの王の誕生を祝うためにエルサレムを訪れました。ヘロデ王の不安をよそに、博士たちはベツレヘムで幼子イエスを発見し、黄金、乳香、没薬を献上しました。ルーベンスはこの物語を、壮大かつ感動的な場面として描いています。

作品の特徴

ルーベンスは、記念碑的な人物像とバロック様式の空間構成を用いて、三博士が幼子キリストを礼拝する場面を描いています。聖母マリアと聖ヨセフは画面右側に配置され、幼子キリストを博士たちに示しています。聖母マリアは画面の中央ではないものの、その身振りは誇り高く、構図の中心となっています。

カスパールは、画面中央でひざまずき、幼子キリストに最も近い場所で礼拝しています。彼は白い衣装を身につけ、左手に香炉を持っています。ルーベンスは、伝統的な配置とは異なり、最年長者のメルキオールではなくカスパールを最も近い場所に描いています。また、カスパールは典礼衣装を身に着けており、聖書の物語をミサと結びつけています。画面中央奥には、頭にターバンを巻いたバルタザールが、没薬が入った壺を持って立っています。画面左側には、赤い服を着たメルキオールが金貨を乗せた高坏を持ち、鑑賞者に視線を向けています。三博士に付き従う召使や兵士、ラクダに乗った人夫たちも描かれており、画面に奥行きと動きを与えています。

ルーベンスは、聖書の時代の人物たちを、当時の東方の衣装で描いています。特に、バルタザールは、1619年にアレッポからアントウェルペンに戻った商人ニコラス・デ・レスペニヤの肖像画を参考に描いたとされています。ルーベンスは助手を借りず、わずか2週間で祭壇画全体を描き上げたと言われています。作品の詳細な研究により、専門家は画面全体がルーベンスによって描かれたと結論付けています。

祭壇額

祭壇画が納められた祭壇額は、大天使聖ミカエル、聖母マリア、クサンテンの聖ノルベルトのアラバスター彫刻を冠した、赤と黒の大理石でできています。この祭壇額は、ルーベンスのデザインに基づいて彫刻家ヨハネス・ファン・ミルダートによって制作されました。

作品の来歴

完成した祭壇画は、聖ミカエル修道院の主祭壇に設置されました。しかし、フランス占領中の1794年に修道院が解散させられ、祭壇画はパリに運ばれました。1815年のナポレオン失脚後、祭壇画は返還され、現在はアントウェルペン王立美術館に所蔵されています。一方、祭壇額はオランダのズンデルトにある聖トルード教会に所蔵されています。

ギャラリー

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脚注

(脚注は省略)

参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）

外部リンク

アントウェルペン王立美術館公式サイトへのリンク'>アントウェルペン王立美術館公式サイト, ピーテル・パウル・ルーベンス『東方三博士の礼拝』

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