東武ED10形電気機関車

東武ED10形電気機関車

東武ED10形電気機関車（とうぶED10がたでんききかんしゃ）は、1928年にイギリスのイングリッシュ・エレクトリック社で製造された直流用電気機関車で、東武鉄道に在籍した唯一の個体です。この機関車は、東武鉄道にとって初めて導入された電気機関車であり、特にその独特な外観に注目が集まります。

概要

ED10形は、伊勢崎線および日光線の全線電化開業に合わせて導入されました。車両の外観は、前後にデッキを持つ箱形のデザインで、左右非対称の形状が特徴です。前面には乗務員扉と運転台窓が配置されており、側面も非対称のデザインで、中央に機械室があり、その両側に主抵抗器や主制御器、電動発電機が配置されています。さらに、デッキは台車側に設置され、板台枠台車と統合されているというユニークな構造を持っています。

本機関車は、他事業者からの発注が流れたことにより東武鉄道が1928年に購入し、1930年に本格的に運用が開始されました。その後、1944年に総武鉄道との合併が行われるまで、東武鉄道唯一の電気機関車として活躍しました。導入当初は変電設備が整っていなかったため、電圧降下が問題となり、主に臨時列車や団体専用の客車運用に利用されました。第二次世界大戦中には貨物列車の運用に転用され、戦後は電車の付随車を牽引することで通勤列車としても使用されました。

変遷と退役

1955年には一斉改番が行われ、ED4000形（ ED4001）に改番されました。また、前面の運転台窓は改良が施されましたが、前照灯の変更はなされず、比較的原形を保ったままの姿で運用が続けられました。

1970代になると、東武鉄道の貨物輸送量の減少により、ED10形は第一線から徐々に退いていきます。1972年には除籍されましたが、解体されることなく近江鉄道へ譲渡され、同年7月に新たに運用を開始します。

近江鉄道での運用

近江鉄道に譲渡されたED10形は、車体塗装を近江鉄道の標準色である青灰色に変更され、入線後は特に多賀町のビール工場からの貨物運送に使われることが多かったです。しかし、1984年にビール輸送が廃止されると、彦根駅や住友セメント彦根工場での入換作業に利用されるようになりました。1986年には住友セメントでの鉄道輸送が全廃となり、その後はしばらくの間使用されない状態となってしまいました。

保存

除籍後も彦根工場内で留置され続けましたが、2007年には彦根駅構内に開設された「近江鉄道ミュージアム」に展示されることになりました。2009年に東武博物館と連携し、元のED10形として復元作業が行われ、以降は東武博物館で保存されている状態です。展示に際しては、外観が復元され、ナンバープレート等も元の姿に戻されました。

ED10形は、日本の鉄道の歴史において貴重な存在であり、今もその姿を見ることができます。

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