東祥高
東 祥高（あずま よしたか、1948年4月12日 - 2012年10月11日）は、日本の作曲家、シンセサイザー奏者です。奈良県大宇陀町（現在の宇陀市）に生まれ、音楽グループ「五つの赤い風船」の初期メンバーとして活動しました。同グループのリードボーカルであった藤原秀子は妻です。
キャリアの初期には、「あぷるぱみす」というグループにも参加しています。ソロ活動においては、アルバム『シンセサイザー組曲「エイシアン・ウインド」』から『シンセサイザー組曲「ファー・フロム・エイシア」』にかけては「あずまよしたか」名義を用い、その後のアルバム『AZUMA』から『THE WANDERER』までは「AZUMA」名義で作品を発表しました。彼は、アメリカのレーベルであるプライベート・ミュージックに、日本人として初めて参加したことでも知られています。
シンセサイザー奏者としての歩みは、1970年代に始まります。1976年、大阪市淀川区に自身のスタジオ「TON STUDIO」を開設しました。これは、以前経営していたPAレンタル会社を知人に譲り、シンセサイザー音楽制作に専念するためのものでした。東は、冨田勲がシンセサイザーの多重録音でオーケストラの響きを表現したアルバム『月の光』に深い感銘を受け、自身も同様に一人で全てのパートを演奏し、音楽を創り出したいと強く願うようになります。
この志を実現するため、ローランドの大型モジュラーシンセサイザー「SYSTEM 700」とデジタルシーケンサー「MC-8」を導入しました。冨田が使用していた高価な「MOOG III」は当時の東にとって手の届かない存在でしたが、「SYSTEM 700」の入手により、本格的なシンセサイザーアーティストとしてのキャリアをスタートさせることができました。当時のTON STUDIOには、TEAC製の8トラックレコーダーとミキサーが設置されていました。
スタジオ開設当初、「TON STUDIO」は音楽制作工房として活動を始めましたが、当時シンセサイザーはまだ新しい楽器であり、認知度は高くありませんでした。そのため、寄せられる仕事の多くは、テレビ、ラジオ、舞台、イベントなどの効果音制作でした。モジュラーシンセサイザーで本格的な音楽作品を制作するには、複雑な手順と多くの時間が必要であり、従来のバンド編成などによる音楽制作と比較して非効率だと見なされがちでした。この状況を打開するため、東は工賃や納期に関わらず様々な仕事を引き受け、多忙な日々を送ります。スタジオに泊まり込み、短い長さの効果音やイメージ音を数多く制作し、顧客の要望に応え続けました。この時期の経験は、SYSTEM 700を自在に操る技術を磨く上で、重要な訓練となったと言えるでしょう。
1980年頃になると、人脈を通じてABC朝日放送ラジオの音源制作を請け負うようになります。「ラジオキャンペーン“海を美しく”」の楽曲や、「ヤングリクエストのテーマ」などを、朝日音楽出版のプロデューサーであった橋本博夫のもとで手掛けました。仕事の依頼が常に途切れなく入るようになり、収入が安定したことで、東は作業効率の向上を図ります。大阪市大淀区（現在の北区）にあった朝日放送の旧社屋近くに、より広く機材も充実させたスタジオを移転・開設し、「NEWTON STUDIO」と名付けました。彼はその後、生涯にわたりこのスタジオで創作活動を続けました。
この頃、東は既に自身の代表作となる「ムーンライト・オブ・エイシア」を含む「エイシアン三部作」に収められる楽曲の制作を独自に進めていました。橋本プロデューサーがこれらの音源をレコード会社に紹介した結果、日本コロムビアとの契約が成立し、東は五つの赤い風船を離れて以来となるメジャー再デビューを果たします。
また、1980年頃には後に著名な音楽家となる松浦雅也がTON STUDIOに遊びに来たことがきっかけで、アルバイトとして働き始め、やがて本格的に活動を共にします。NEWTON STUDIOを法人化する際には、高価なデジタルシンセサイザー「Fairlight CMI」導入のためのリース保証人として、SF作家の小松左京が名を連ねています。松浦は1993年頃までNEWTON STUDIOに在籍しました。
一方で、先端技術であるシンセサイザーの世界にも徐々にデジタル化の波が押し寄せます。東のスタジオにも、オーバーハイムやプロフェット5など、デジタル機能を備えた機材が増えていきました。この時期、東の音楽を高く評価していた小松左京は、自身が関与する関西地方のイベントで、しばしば東を音楽監督に起用しました。これは、東が「大阪」「近畿地方」を創作活動の拠点とし続け、特に故郷「奈良」「やまと」を精神的なルーツとする姿勢が、彼の日本的な感性や中央への迎合を嫌う反骨精神として評価されたためと考えられています。
近畿地方を重視する東の活動は、マスコミ各社からも注目を集め、朝日放送だけでなく、関西テレビやNHK大阪放送局からも次々と仕事の依頼が舞い込むようになります。中でも、奈良国立文化財研究所の監修によるNHK大阪放送局のドキュメンタリーシリーズ「国宝への旅」では、古の国宝美術品をテーマにした音楽制作を担当しました。これは、東の文化志向と番組のコンセプトが完全に一致し、過去の遺産から音楽的なインスピレーションを得るという、音楽家にとって非常に貴重な機会となりました。
そして1982年、東は遂にデジタルシンセサイザー「Fairlight CMI IIx」を導入します。この楽器は、具体的な音をサンプリングして作曲できるという点で、東の楽曲制作に対する考え方を大きく変えました。この頃から、彼の作風は「日本的な心に響く音色やメロディの懐かしさ」を追求した、より親しみやすいものへと変化していきました。
メロディやアンサンブルの構築に集中できる時間が増えるにつれて、東の創作は「まほろばの響きの記憶」、すなわち故郷である奈良の風景や歴史をテーマとする方向へと深化していきます。「阿騎野」や「やまとしうるわし」など、自身のルーツに根差した題材が、楽曲の主題として選ばれることが多くなりました。
2000年頃、奈良で開催されたイベントの音楽監督からアドバイスを求められた東は、「篠笛と鼓を加えるのが良いのではないか」と答える中で、自身がそうした音楽を「まさにやりたかったこと」だと改めて認識しました。この経験から、東は篠笛奏者の井上真美とともにユニット「AZUMA組」を結成し、楽曲制作を開始します。後に能楽鼓奏者の清水皓祐が加わり、東祥高の目指す音楽スタイルは完成形に近づいていきました。AZUMA組の活動がまさに最盛期を迎えようとしていた矢先、東祥高は2012年10月11日、肺炎のため64歳でその生涯を終えました。
オリジナルアルバム: 『ムーンライト・オブ・エイシア』など「エイシアン三部作」を含む多数
サウンドトラック: ゲーム『PANZER DRAGOON』、OVA『パンツァードラグーン』、映画『チンピラぶるーす ど・アホ!』など
テレビ番組: NHK『国宝への旅』、NHK特集『実験推理 飛鳥石舞台』など
* その他: からくり時計の作曲（野村證券京都支店、北陸銀行本店）
キャリアの初期には、「あぷるぱみす」というグループにも参加しています。ソロ活動においては、アルバム『シンセサイザー組曲「エイシアン・ウインド」』から『シンセサイザー組曲「ファー・フロム・エイシア」』にかけては「あずまよしたか」名義を用い、その後のアルバム『AZUMA』から『THE WANDERER』までは「AZUMA」名義で作品を発表しました。彼は、アメリカのレーベルであるプライベート・ミュージックに、日本人として初めて参加したことでも知られています。
シンセサイザー奏者としての歩みは、1970年代に始まります。1976年、大阪市淀川区に自身のスタジオ「TON STUDIO」を開設しました。これは、以前経営していたPAレンタル会社を知人に譲り、シンセサイザー音楽制作に専念するためのものでした。東は、冨田勲がシンセサイザーの多重録音でオーケストラの響きを表現したアルバム『月の光』に深い感銘を受け、自身も同様に一人で全てのパートを演奏し、音楽を創り出したいと強く願うようになります。
この志を実現するため、ローランドの大型モジュラーシンセサイザー「SYSTEM 700」とデジタルシーケンサー「MC-8」を導入しました。冨田が使用していた高価な「MOOG III」は当時の東にとって手の届かない存在でしたが、「SYSTEM 700」の入手により、本格的なシンセサイザーアーティストとしてのキャリアをスタートさせることができました。当時のTON STUDIOには、TEAC製の8トラックレコーダーとミキサーが設置されていました。
スタジオ開設当初、「TON STUDIO」は音楽制作工房として活動を始めましたが、当時シンセサイザーはまだ新しい楽器であり、認知度は高くありませんでした。そのため、寄せられる仕事の多くは、テレビ、ラジオ、舞台、イベントなどの効果音制作でした。モジュラーシンセサイザーで本格的な音楽作品を制作するには、複雑な手順と多くの時間が必要であり、従来のバンド編成などによる音楽制作と比較して非効率だと見なされがちでした。この状況を打開するため、東は工賃や納期に関わらず様々な仕事を引き受け、多忙な日々を送ります。スタジオに泊まり込み、短い長さの効果音やイメージ音を数多く制作し、顧客の要望に応え続けました。この時期の経験は、SYSTEM 700を自在に操る技術を磨く上で、重要な訓練となったと言えるでしょう。
1980年頃になると、人脈を通じてABC朝日放送ラジオの音源制作を請け負うようになります。「ラジオキャンペーン“海を美しく”」の楽曲や、「ヤングリクエストのテーマ」などを、朝日音楽出版のプロデューサーであった橋本博夫のもとで手掛けました。仕事の依頼が常に途切れなく入るようになり、収入が安定したことで、東は作業効率の向上を図ります。大阪市大淀区（現在の北区）にあった朝日放送の旧社屋近くに、より広く機材も充実させたスタジオを移転・開設し、「NEWTON STUDIO」と名付けました。彼はその後、生涯にわたりこのスタジオで創作活動を続けました。
この頃、東は既に自身の代表作となる「ムーンライト・オブ・エイシア」を含む「エイシアン三部作」に収められる楽曲の制作を独自に進めていました。橋本プロデューサーがこれらの音源をレコード会社に紹介した結果、日本コロムビアとの契約が成立し、東は五つの赤い風船を離れて以来となるメジャー再デビューを果たします。
また、1980年頃には後に著名な音楽家となる松浦雅也がTON STUDIOに遊びに来たことがきっかけで、アルバイトとして働き始め、やがて本格的に活動を共にします。NEWTON STUDIOを法人化する際には、高価なデジタルシンセサイザー「Fairlight CMI」導入のためのリース保証人として、SF作家の小松左京が名を連ねています。松浦は1993年頃までNEWTON STUDIOに在籍しました。
一方で、先端技術であるシンセサイザーの世界にも徐々にデジタル化の波が押し寄せます。東のスタジオにも、オーバーハイムやプロフェット5など、デジタル機能を備えた機材が増えていきました。この時期、東の音楽を高く評価していた小松左京は、自身が関与する関西地方のイベントで、しばしば東を音楽監督に起用しました。これは、東が「大阪」「近畿地方」を創作活動の拠点とし続け、特に故郷「奈良」「やまと」を精神的なルーツとする姿勢が、彼の日本的な感性や中央への迎合を嫌う反骨精神として評価されたためと考えられています。
近畿地方を重視する東の活動は、マスコミ各社からも注目を集め、朝日放送だけでなく、関西テレビやNHK大阪放送局からも次々と仕事の依頼が舞い込むようになります。中でも、奈良国立文化財研究所の監修によるNHK大阪放送局のドキュメンタリーシリーズ「国宝への旅」では、古の国宝美術品をテーマにした音楽制作を担当しました。これは、東の文化志向と番組のコンセプトが完全に一致し、過去の遺産から音楽的なインスピレーションを得るという、音楽家にとって非常に貴重な機会となりました。
そして1982年、東は遂にデジタルシンセサイザー「Fairlight CMI IIx」を導入します。この楽器は、具体的な音をサンプリングして作曲できるという点で、東の楽曲制作に対する考え方を大きく変えました。この頃から、彼の作風は「日本的な心に響く音色やメロディの懐かしさ」を追求した、より親しみやすいものへと変化していきました。
メロディやアンサンブルの構築に集中できる時間が増えるにつれて、東の創作は「まほろばの響きの記憶」、すなわち故郷である奈良の風景や歴史をテーマとする方向へと深化していきます。「阿騎野」や「やまとしうるわし」など、自身のルーツに根差した題材が、楽曲の主題として選ばれることが多くなりました。
2000年頃、奈良で開催されたイベントの音楽監督からアドバイスを求められた東は、「篠笛と鼓を加えるのが良いのではないか」と答える中で、自身がそうした音楽を「まさにやりたかったこと」だと改めて認識しました。この経験から、東は篠笛奏者の井上真美とともにユニット「AZUMA組」を結成し、楽曲制作を開始します。後に能楽鼓奏者の清水皓祐が加わり、東祥高の目指す音楽スタイルは完成形に近づいていきました。AZUMA組の活動がまさに最盛期を迎えようとしていた矢先、東祥高は2012年10月11日、肺炎のため64歳でその生涯を終えました。
主な作品
オリジナルアルバム: 『ムーンライト・オブ・エイシア』など「エイシアン三部作」を含む多数
サウンドトラック: ゲーム『PANZER DRAGOON』、OVA『パンツァードラグーン』、映画『チンピラぶるーす ど・アホ!』など
テレビ番組: NHK『国宝への旅』、NHK特集『実験推理 飛鳥石舞台』など
* その他: からくり時計の作曲（野村證券京都支店、北陸銀行本店）
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