東萊郡

東萊郡

東萊郡（トンネぐん、朝鮮語: 동래군）は、大韓民国慶尚南道にかつて存在した行政区域の一つです。現在の釜山広域市の大部分を占める広範な地域をその範囲としていました。この地域の歴史は古く、統一新羅時代の757年に「東萊郡」が置かれたことに始まります。その後、高麗時代の1018年には「東萊県」となり、李氏朝鮮時代には規模の拡大や重要性の変化に伴い、「東萊都護府」に昇格したり、一時的に再び県に降格されたりと名称と地位が変遷を繰り返しました。特に港湾都市として発展した釜山地域は、東萊の支配下に長く置かれました。

近代に入り、日本の統治が始まる直前の1895年には、朝鮮王朝の行政制度改革である二十三府制の下で旧来の制度が廃止され、「東萊府」を基に「東萊郡」が編成されました。同時に、広域行政の単位として東萊郡を含む10郡を管轄する新たな「東萊府」が設けられました。しかし、この二十三府制はわずか1年で廃止され、東萊は再び「東萊郡」の名称に戻され、新たに設置された十三道制に基づく慶尚南道の管轄下に置かれることになります。その後、再び「東萊府」となり、1910年には「釜山府」と改称されるなど、短期間に名称が変化しました。

1914年の日本の郡面併合によって、行政区域が大幅に再編成されました。この時、旧釜山府の中心市街地が新たな「釜山府」として分離され、残りの大部分と隣接する機張郡が統合されて新たな「東萊郡」が設置されました。この1914年に編成された東萊郡は、現在の釜山広域市の原型となる広大な地域を含んでいました。下位行政区画としては、東萊面、西面、北面、亀浦面、沙上面、沙下面、南面、機張面、日光面、長安面、鼎冠面、鉄馬面など、12の面が置かれました。

その後、釜山府（1949年からは釜山市、1963年からは釜山直轄市）の市域が段階的に拡張されるにつれて、東萊郡の領域は徐々に釜山府/市に編入されていきました。1936年には西面や沙下面の一部が、1942年には郡の中心であった東萊面（1931年に東萊邑に昇格）や沙下面、南面、北面の一部が釜山府に組み込まれました。さらに1963年には、亀浦邑や沙上面、北面の一部、機張面の一部も釜山直轄市に編入されました。これにより、東萊郡の面積は大きく縮小しました。最後まで東萊郡として残った地域は、かつて機張郡だった北東部でした。

1973年7月1日、東萊郡に残っていた鉄馬面、鼎冠面、長安面、日光面、機張面、そして蔚州郡から編入されていた西生面が、隣接する梁山郡に編入されることとなり、東萊郡の名称は消滅しました。これにより、約1200年にわたる「東萊」を冠する主要な行政区域の歴史に幕が下ろされました。

しかし、1995年3月1日には、梁山郡に編入されていた旧機張郡域が再び分離され、釜山広域市に編入されて「機張郡」が設置されました。この再編により、1914年に機張郡を編入して成立した東萊郡の領域全体が、現在の釜山広域市の市域に含まれることとなりました。

関連項目

東萊区
釜山広域市
* 慶尚南道

現在の釜山広域市東萊区は、かつての東萊郡の中心地であり、その名を現在に留めています。東萊温泉などの史跡も残されています。東萊郡の変遷史は、近代における釜山という大都市の形成過程を示す重要な事例と言えるでしょう。

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