東部総合計画

東部総合計画：ナチス・ドイツの東方侵略と植民地化計画

東部総合計画（Generalplan Ost）とは、ナチス・ドイツが第二次世界大戦中に策定した、東ヨーロッパにおける広大な領土の再編計画です。ポーランド侵攻とソ連侵攻で占領した地域を対象に、ドイツ人による植民地化を目論み、スラブ人を始めとする先住民の追放・大量殺戮を前提とした、極めて野蛮な計画でした。

計画の背景：東方生存圏とナチズムの野望

ナチス・ドイツにとって、東ヨーロッパ、特にウクライナなどの肥沃な土地を「東方生存圏」として獲得することは、国家の存続と拡大に不可欠な課題でした。1939年のポーランド侵攻の成功は、この野望を実現するための第一歩となりました。親衛隊全国指導者ヒムラーは、東部における人種政策の実施を担う組織を設立し、計画の推進を図りました。

当時、ポーランド統治はポーランド総督府が担っていましたが、経済面では四カ年計画庁傘下の東部信託公社が大きな影響力を持っていました。東部信託公社はポーランドを「帝国の隣国」として再建しようと考えていましたが、ヒトラーは当初から、ポーランドを単なる資源供給地と労働力の供給源としてしか考えていませんでした。この食い違いは、両者の激しい対立を生みました。

1940年12月、ヒトラーはソ連侵攻を決定。すでにイギリスの海上封鎖による資源不足が深刻化しており、ソ連侵攻は資源獲得と食糧問題の解決も目的としていました。この状況下、ヒムラーは1941年6月21日、独ソ戦直前に東部総合計画の策定を命令しました。

計画の内容：スラブ人の追放とドイツ人の植民

東部総合計画の核心は、ドイツ人の入植のための土地確保です。そのためには、数千万人規模のスラブ人の追放・殺戮が不可欠でした。計画は、ポーランド人とロシア人を主な対象として、3000万人から5000万人の移住を想定していました。

この計画は、単なる移住計画ではありませんでした。ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅、戦争によるロシア人戦死者、そして意図的な飢餓による大量死を前提としていました。四カ年計画庁は、包囲下にある地域から食糧を奪い、数百万人のロシア人を餓死させる「飢餓計画」を立案しており、東部総合計画はこの計画と密接に関連していました。

改訂版計画では、移住人数は減少しましたが、これはロシア人やポーランド人を強制労働力として利用する必要性が高まったためです。ドイツ人は支配層となり、その他の民族は下層階級に位置づけられるという、極めて差別的な社会構造が計画されていました。

東部へのドイツ人移住には、25年間で490万人が必要とされましたが、その数は確保困難でした。そのため、リトアニア人やラトビア人のうち、人種的に「価値が高い」と判断された者の一部を中層階級として利用し、労働力不足を補う計画でした。

計画の費用と実行

25年間で650億ライヒスマルクという莫大な費用が見積もられましたが、その費用はユダヤ人やロシア人からの略奪資産と強制労働によって賄われる予定でした。

しかし、戦況の悪化により、計画の大部分は実行されませんでした。一部は「特別実験室」とされたザモシチなどで実行され、ドイツ人入植と同時に、住民の強制労働や絶滅収容所への送致が行われました。

まとめ：東部総合計画とナチスの蛮行

東部総合計画は、ナチス・ドイツの野蛮な侵略と植民地化計画の象徴です。スラブ人への大量虐殺、ユダヤ人絶滅計画との連携、そして資源略奪という、人道に対する重大な犯罪計画でした。この計画は、ナチス政権の人種差別思想と膨大な暴力性を明確に示しており、歴史の暗い一ページとして記憶にとどめなければなりません。

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