四カ年計画

ナチス・ドイツの四カ年計画：自給自足と戦争への道

ナチス・ドイツ政権下で実行された四カ年計画は、1933年から始まり、当初は失業対策と経済活性化を目的としていました。しかし、第二次計画以降は、自給自足経済（アウタルキー）の確立と戦争への備えを主眼とする軍事経済体制へと変貌を遂げます。

第一次四カ年計画：失業解消と経済成長の幻想

1933年、ヒトラー率いるナチス政権は、国民に4年間の猶予を求め、「失業の解消」「国民所得の増加」「自動車生産の拡大」「道路整備」「中産階級の繁栄」といった大胆な公約を掲げました。これは、国民の支持を固め、政権基盤を安定させるためのスローガン的な側面が強く、実際には経済政策として体系的に整備されたものではありませんでした。

第一次計画下では、ドイツ経済大臣兼ライヒスバンク総裁のヒャルマル・シャハトが大きな影響力を持っていました。シャハトは対米協調による平和的なアウタルキーを主張し、急激な軍拡には慎重な姿勢を示していました。しかし、これは軍拡を最優先するヒトラーの政策とは対立するものでした。

第一次計画は一定の成果を収め、失業率の低下や自動車生産量の増加などが見られました。しかし、1936年には外貨不足と食糧不足が深刻化し、ドイツ経済は危機に瀕することになります。

第二次四カ年計画：戦争に向けた自給自足経済

1936年、ヒトラーは第二次四カ年計画を発表しました。これは、第一次計画とは異なり、戦争への備えを明確に意識したものでした。計画の全権責任者にはナチ党No.2のヘルマン・ゲーリングが任命され、四カ年計画庁が設置されました。

ゲーリングは、採算性を無視した生産を行い、外国への資源依存を減らすことを目指しました。これにより、人造石油、人造繊維、合成ゴムなどの生産が拡大し、軍備拡張のための投資が急増しました。

四カ年計画庁は、ドイツ全体の設備投資の約半分を占めるほどの莫大な権力を掌握しました。しかし、その運営にはIG・ファルベンなどの巨大企業が大きく関与しており、特にIG・ファルベンは計画全体の投資額の約3分の2を掌握するほどの影響力を持っていました。このため、四カ年計画は、国家政策というよりも、巨大企業の利益を優先した政策となりつつありました。

第二次計画は、軍備拡張による国民経済の歪みを隠蔽しながら進められました。国家負債は急増し、国民生活水準の向上は限定的なものにとどまりました。

戦争の勃発と計画の終焉

1939年9月、第二次世界大戦が勃発すると、四カ年計画は更なる延長を余儀なくされました。しかし、戦争が長期化し、軍需省が主導権を握るようになると、四カ年計画庁の影響力は徐々に低下していきました。1942年、アルベルト・シュペーアが軍需大臣に就任すると、戦争経済は大きく転換し、四カ年計画は事実上終焉を迎えます。

四カ年計画の評価

四カ年計画は、当初の目的である失業解消や経済成長に一定の成果を収めた一方で、戦争に向けた軍備拡張を優先した結果、国家経済を著しく歪ませ、国民生活水準の向上を阻害しました。また、巨大企業への依存が深まるにつれ、国家政策としての整合性が失われていきました。四カ年計画は、ナチス・ドイツの台頭と崩壊を象徴する重要な経済政策でしたが、その成果と負の遺産は今日まで歴史的考察の対象となっています。

参考文献

ノルベルト・フライ著『総統国家―ナチスの支配 1933―1945年』（岩波書店）
リチャード・オウヴァリー著、永井清彦監訳、秀岡尚子訳『ヒトラーと第三帝国』（河出書房新社）
成瀬治、山田欣吾、木村靖二著『ドイツ史〈3〉1890年~現在』（山川出版社）
阿部良男著『ヒトラー全記録 20645日の軌跡』（柏書房）
村瀬興雄編 『ファシズムと第二次大戦　世界の歴史15』（中公文庫）
その他、学術論文等

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