東鉄工業作業員宿舎放火殺人事件

東鉄工業作業員宿舎放火殺人事件：成田空港問題と新左翼テロ

1983年6月7日未明、千葉県四街道市の東鉄工業作業員宿舎で発生した放火殺人事件は、日本の現代史における暗い一頁として記憶されています。この事件は、成田国際空港建設反対運動という複雑な社会情勢と、新左翼グループによる暴力的な行動が深く関与した未解決事件です。


事件の概要

1983年6月7日午前3時45分頃、東鉄工業の作業員宿舎が炎に包まれました。宿舎には、成田国際空港の航空燃料輸送パイプライン工事関係者が宿泊していました。激しい炎の中で、2名の作業員が逃げ遅れ、命を落としました。1名は重傷を負いました。東鉄工業は、空港公団から航空燃料輸送パイプラインの陸橋敷設工事を請け負っており、このパイプラインは、当時問題となっていた航空機燃料輸送の課題解決に不可欠なものでした。


パイプライン施設自体は厳重な警備体制が敷かれていましたが、作業員宿舎は警備の対象外でした。事件発生当時、工事は既に完了しており、常駐警備は撤収されていました。しかし、竣工検査と引き渡しを控え、社員による残務整理が続けられていました。犠牲となった社員らは、工事の完了を祝う会食の後、宿舎で休息していました。


事件後、過激派組織である中核派が犯行声明を発表しました。声明では、成田空港建設反対運動の一環として、パイプライン工事の拠点である宿舎を攻撃したと主張しています。犯行に使用されたとみられる時限式発火装置も発見されています。


事件の背景：成田空港問題と三里塚闘争

この事件は、長年にわたって激しく争われてきた成田国際空港建設反対運動、いわゆる三里塚闘争の文脈の中で発生しました。三里塚闘争では、過激派による暴力的な抗議活動が繰り返し行われ、既に警察官の殉職者も出ていました。しかし、この事件は、初めて民間人が犠牲となった事件であり、大きな衝撃を与えました。


東鉄工業の作業員たちは、空港建設反対派によるパイプラインへの攻撃について耳にしていましたが、自社の工事は付帯工事であり、直接的な関係はないと考えていました。そのため、今回の襲撃は、彼らにとって全く予想外の出来事だったのです。


事件の影響とその後

この事件は、民間人を標的とする極左暴力集団によるテロの危険性を改めて浮き彫りにしました。犠牲となった作業員たちの悲痛な叫びは、社会に大きな衝撃を与え、多くの議論を巻き起こしました。中核派は、犠牲者について「二期工事の当事者であり、一般の労働者ではない」とする声明を発表しましたが、階級闘争を掲げる新左翼が労働者を殺害したという事実は、反対派内部にも動揺をもたらしました。中核派と対立する反対同盟熱田派も、この事件を非難する声明を発表しました。


事件から現在まで、犯人は特定されておらず、公訴時効によって未解決事件となっています。この事件は、成田空港建設問題、新左翼運動、そして日本の社会構造といった様々な要素が複雑に絡み合った、未解決の悲劇として、現代社会に重い問いを投げかけています。


参考文献

『過激派事件簿40年史』立花書房
原口和久『成田あの一年』崙書房出版

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