杵屋佐之忠

杵屋 佐之忠（きねや さのただ）

杵屋佐之忠、1929年5月21日に滋賀県大津市で生まれ、本名は廣瀬忠夫（ひろせ ただお）。彼は卓越した長唄三味線方および付け師として、日本の伝統音楽界において大きな足跡を残しました。彼の音楽人生は1947年に始まります。この年、疎開先の栃木県日光市で三味線の響きに心を奪われ、杵屋栄暁に師事することになりました。

続いて1949年に上京し、初世・杵屋佐之助のもとでその腕を磨き始めます。同年9月、彼は劇団前進座に所属し、杵屋忠雄の名で歌舞伎にデビューしました。この初舞台は、彼の音楽家としてのキャリアの始まりを意味するもので、彼の才能が多くの人に知られるきっかけとなりました。

経歴と活動

佐之忠は、1951年6月に劇団前進座の地方公演『幡随院長兵衛』で初めて黒御簾立三味線としての演奏を披露しました。1952年には、付け師としての初舞台である劇団前進座公演『佐倉義民伝』に出演し、同年9月には『種まき三番叟』で初めての出囃子立三味線を演じました。

1955年に杵屋佐之忠を名乗ることが認められ、その後も彼は歌舞伎における重要な役割を果たし続けました。1990年にはフリーとして活動を始め、劇団前進座の付け師を務めるほか、歌舞伎音楽研究会『黒御簾塾』や演奏会『談話室・佐之忠』など、幅広く活動の場を広げました。このように、佐之忠は歌舞伎や伝統音楽の現場だけでなく、講演やラジオ番組など多彩なメディアにおいてもその技術と思いを共有しました。

代表的な作品

彼の作曲による代表的な作品には『蛸』や『祇王寺物語』があります。また、付け師としての重要な作品には『魚屋宗五郎』や『佐倉義民伝』、さらには『お染の七役』や『人情噺・文七元結』など多くの演目が名を連ねています。他にも『東海道四谷怪談』や『髪結新三』といった经典作品の音楽も手掛けており、彼の音楽は多くの観客に親しまれました。

出版活動

佐之忠は、音楽活動に留まらず書籍やCDの出版も行っており、『芝居名せりふ・歌舞伎音楽集』や『歌舞伎十八番・鳴神・音楽集〜杵屋佐之忠編』などが代表作です。また、『演劇論講座Ⅵ』や『黒御簾談話』といった著書も発表し、その知識を次世代に伝えようとする姿勢が伺えます。

佐之忠は2017年4月6日に逝去しましたが、彼が残した音楽と教育の成果は、今もなお多くの人々の中で生き続けています。彼の功績は、長唄三味線の世界における重要な一歩を象徴しており、伝統音楽の深淵な魅力を後世に伝えています。

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