松下竜一

松下竜一（1937年2月15日 - 2004年6月17日）は、大分県中津市出身の作家です。幼少期に病で右目を失明するという困難を抱えながらも、自然、社会、そして人間への深い洞察に満ちた作品を数多く残しました。

高校卒業後、家業の豆腐屋を継ぎますが、その傍らで文学への情熱を燃やし続けました。1968年には、自費出版した歌集『豆腐屋の四季』が反響を呼び、翌年には公刊され、テレビドラマ化もされるという成功を収めます。しかし、松下は、世間から「模範青年」としてもてはやされることに違和感を覚え、1970年に豆腐屋を廃業、執筆活動に専念することを決意します。

転機となったのは、1971年に西日本新聞から依頼された公害問題の取材でした。そこで出会った、セメント工場誘致に反対する女性たちの姿を描いたルポルタージュ『風成の女たち』(1972年)は、彼の社会問題への関心を決定づけました。その後も、火力発電所建設反対運動や環境権訴訟など、様々な社会運動に積極的に関わります。

松下の作品の特徴は、弱者に寄り添う視点と、権威に屈しない姿勢です。ハンセン病患者の詩人・伊藤保の評伝『檜の山のうたびと』(1974年)、ダム建設反対運動を描いた『砦に拠る』(1977年)など、一貫して社会の底辺で生きる人々に光を当てました。

ノンフィクション作品だけでなく、児童文学やエッセイも手がけました。大杉栄と伊藤野枝の娘である伊藤ルイの生涯を追った『ルイズ - 父に貰いし名は』は、1982年に講談社ノンフィクション賞を受賞。アナキスト和田久太郎の評伝『久さん伝 - あるアナキストの生涯』(1983年)、東アジア反日武装戦線を描いた『狼煙を見よ』(1987年)など、硬派なテーマの作品も多く残しています。

晩年まで、反原発運動や基地問題に取り組み続けた松下。自らが発行する「草の根通信」では、日々の生活や社会への思いを綴り、多くの人々に勇気と希望を与え続けました。

2003年に小脳出血で倒れ、リハビリに励むも、2004年6月17日に67歳で亡くなりました。30年以上に渡り発行された「草の根通信」も、彼の死後、終刊となりました。しかし、彼の作品と精神は、今もなお多くの人々に読み継がれ、影響を与え続けています。

主な作品

『豆腐屋の四季 - ある青春の記録』(1969年) : 自身の青春時代を描いた歌集
『風成の女たち - ある漁村の闘い』(1972年) : セメント工場誘致反対運動を描いたルポルタージュ
『5000匹のホタル』(1974年): 児童文学
『檜の山のうたびと - 歌人伊藤保の世界』(1974年) : ハンセン病患者の詩人・伊藤保の評伝
『砦に拠る』(1977年) : ダム建設反対運動を描いたノンフィクション
『ルイズ - 父に貰いし名は』(1982年) : 大杉栄と伊藤野枝の娘・伊藤ルイの生涯を描いたノンフィクション
『久さん伝 - あるアナキストの生涯』(1983年) : アナキスト和田久太郎の評伝
『狼煙を見よ - 東アジア反日武装戦線“狼”部隊』(1987年): 東アジア反日武装戦線を描いた作品
* 『底ぬけビンボー暮らし』(1996年) : エッセイ集

松下竜一の生涯は、社会の矛盾と不条理に立ち向かい、弱者に寄り添い、真実を追求し続けた闘いの歴史でした。彼の作品は、現代社会における様々な問題に直面する私たちに、勇気と希望を与え続けています。

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