松下興産

松下興産株式 会社の興亡

松下興産株式会社は、かつて存在した日本の不動産会社、デベロッパーです。大阪市を拠点に、オフィスビル、リゾートホテル、住宅地の開発、そして「ロジュマン」ブランドのマンション分譲などを手がけていました。松下家の資産管理会社としての側面も持ち、松下グループの一員として活動していました。

しかし、バブル期の過剰投資が重荷となり、2005年に経営破綻。新旧分離による整理・再建の過程で清算され、旧松下興産の採算部門はMID都市開発に事業譲渡されました。この企業は、堅実な経営から積極的な投資、そして経営破綻、事業分割、清算という激動の歴史を辿りました。

創業期

1952年12月、松下家の直営企業として設立されました。当初は、松下グループの資産管理を主な目的としていました。1956年には大阪市東区で初の倉庫事業を開始し、次いで駐車場事業にも進出。1962年には、初の戸建開発事業として宝塚市で「花屋敷荘園住宅地」の販売を開始し、1964年には草津市で初の大規模開発事業である「草津工業団地」の開発を開始しました。

不動産管理とともに、松下電器や松下電工の株式を大量に保有するなど、松下グループの資産運営会社としての役割も担うようになりました。特筆すべきは、松下興産の社長を1983年まで松下グループ創業者である松下幸之助本人が務めていた点です。

バブル期の拡大

当初は不動産管理など堅実な経営を行っていましたが、バブル期に入ると、経営方針が大きく転換します。松下幸之助の孫にあたる松下正治の長女の夫で、浦和土木工業創業者の息子でもある関根恒雄が社長に就任すると、事業内容は中規模のオフィスビル・マンション開発から、大規模開発へとシフトしました。

コクドとの合弁によるホテル部門への進出、妙高パインバレー、マウントレースイ、和歌山マリーナシティといった広大なリゾート開発に積極的に投資。1988年には、オーストラリアのゴールドコーストのホテルを全日空ホテルズから買収し、ロイヤルパインズリゾートとして運営を開始しました。

経営破綻と再建

バブル期の過剰な投資が祟り、一時は1兆円近くの有利子負債を抱えるに至り、経営危機に陥りました。当時、ビル部門を大和ハウス工業に売却するという事実上の身売り計画が持ち上がりましたが、松下家を中心とする当時の経営陣が同意せず、実現には至りませんでした。

その後、松下興産は優良不動産の売却を進め、1999年には住友銀行と松下グループ・松下電器からの1500億円規模の支援を受け、一時的に経営危機を脱しました。しかし、同年10月に同社最後のホテル開発として関根の出身地に開業した浦和センチュリーシティとそのテナントである浦和ロイヤルパインズホテルの投資が重荷となり、長期借入金の負担が解消されることはありませんでした。

2004年には、不動産売却損が積み重なり、有利子負債額は約7700億円、債務超過は約1400億円に達し、再び経営危機に陥りました。当時、大和ハウス工業など数社に売却を打診したものの、条件面で折り合わず、自主再建を目指すこととなりました。

新旧分離と清算

松下家や松下電器が減資に応じる一方で、三井住友銀行などが1000億円以上の債権放棄を行い、アメリカの投資ファンドであるエートス・キャピタルが優先株を引き受けるなど、大規模な再建策が実施されました。

この再建過程では、新旧分離方式が採用され、松下興産の事業のうち採算事業と不採算事業が切り離されました。マンション分譲を中心とした住宅開発などの採算事業は、MID都市開発（和歌山ロイヤルパインズから商号変更）に分割されました。MID都市開発は後に、関西電力に買収され「かんでんグループ」となりましたが、2016年に関西電力の子会社である関電不動産に吸収合併され、現在の関電不動産開発へと社名を変更し、法人格は消滅しました。

一方、不採算の観光事業のみが残された松下興産は、2005年4月に豊秀興産株式会社へ商号を変更。2005年 9月30日の株主総会において解散を決議し、大阪地方裁判所より特別清算手続き開始決定を受けました。負債総額は約1500億円に上りました。

主な開発物件

松下興産が手がけた主な開発物件は以下の通りです。

マンション・住宅地
花屋敷荘園住宅地（兵庫県宝塚市）
摂津マンション（大阪府高槻市）
草津パナタウン桜ヶ丘（滋賀県草津市）
鎌倉ロジュマン（神奈川県鎌倉市）
多賀城ロジュマン（宮城県多賀城市）
北六甲台住宅地（兵庫県西宮市）
新富谷ガーデンシティ（宮城県富谷町）

オフィスビル
京橋ナショナルビル（現パナソニック大阪京橋ビル）
御成門ビル（現東京パナソニックビル1号館）
TWIN21
松下IMPビル

ホテル・リゾート
ロイヤルパインズ
アパリゾート妙高パインバレー
和歌山マリーナシティ
守口ロイヤルパインズホテル
浦和ロイヤルパインズホテル
ロイヤルパインズリゾート（オーストラリア）
白浜エネルギーランド
マウントレースイ（夕張市）

商業施設
イオン津田沼ショッピングセンター

提供番組

松下興産は、1987年頃から2003年までナショナル劇場の提供も行っていました。

まとめ

松下興産は、松下グループの一員として、不動産開発、リゾート運営など多岐にわたる事業を展開しましたが、バブル期の過剰投資が原因で経営破綻。その後の再建策として、事業分割と清算が行われました。この企業は、日本の経済史におけるバブル期の教訓を物語る存在として、今も記憶されています。