松井久子

松井久子: 映画監督の軌跡と影響

松井久子（まつい ひさこ）は、日本の映画監督およびプロデューサーとして知られ、戦争や介護といった社会的なテーマを扱った作品で高く評価されています。岐阜県に生まれ、東京の深川で育った彼女は、東京都立小松川高等学校を経て、早稲田大学文学部演劇科を卒業しました。最初は雑誌のフリーライターとして活動していましたが、1985年に39歳でTV番組制作会社、エッセン・コミュニケーションズを設立。その後、1993年には映画制作に進出し、彼女の映画キャリアのスタートを切りました。

初期の作品

松井が監督としてデビューしたのは1998年の映画『ユキエ』です。この作品は、国際結婚を果たした日本人女性がアルツハイマー病を患い、アメリカで生活する姿を描いています。原作は吉目木晴彦の芥川賞受賞作『寂寥郊野』で、脚本は新藤兼人が手がけました。主演の倍賞美津子の熱演も相まって、この映画は瞬く間に話題となり、新藤兼人賞を受賞しました。

社会的テーマへの関心

松井の次作『折り梅』（2001年）も、介護という現代的な課題を扱っており、小菅もと子の手記『忘れても、しあわせ』を基に製作されました。この作品では、アルツハイマー病の母親を持つ嫁の視点から、介護の現実が描かれています。主演には原田美枝子と吉行和子が選ばれ、より一層の注目を集めました。

これらの作品は、公開後も口コミで話題となり、多くの地域で自主上映会が行われています。松井自身もこうした上映会に参加し、映画製作の裏話や介護問題について触れたり、女性の生き方に関する講演を行うことで、観客とのつながりを強化しました。

自主上映と書籍

2004年には、彼女の著書『ターニング・ポイント～『折り梅』100万人をつむいだ出会い』が出版され、映画制作の中での出会いと経験が綴られています。この本は、彼女の思考や創作の背景を知る上での貴重な資料となっています。

最新作とその支援

松井の第三作『レオニー』(2010年)は、日米合作映画であり、彫刻家イサム・ノグチの母、レオニー・ギルモアを描いています。この作品の制作に際しては、全国のファンが集結し、製作支援を行う「松井久子監督の第三作を応援する会 マイレオニー」が発足しました。ファンがボランティアとしてエキストラ参加するなど、観客との共創の精神が根付いています。

最近の活動

松井は2016年に公開された『不思議なクニの憲法』でも監督を務め、引き続き社会に対する鋭い視点を提供しています。また、2022年には76歳で89歳の子安宣邦と再婚し、私生活でも新たなスタートを切りました。

松井久子は、映画を通じて未だに存在する社会問題や人間の生き様を問う姿勢を持ち続け、彼女の作品はその後の世代へと大きな影響を与えています。彼女の活動は、観客との対話を大切にしながら、映画という媒体を通じて社会的な意識を高め、福祉や介護といったリアリティを伝えることに寄与しています。

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