子安宣邦

子安宣邦：日本思想史研究のパイオニア

子安宣邦氏（1933年2月11日生）は、近世・近代日本思想史を専門とする日本の著名な思想史家です。東京大学文学部卒業後、横浜国立大学、大阪大学で教鞭をとり、1987年には大阪大学より文学博士号を取得しました。大阪大学名誉教授の称号を持ち、東京家政学院大学国際学部教授も歴任。日本思想史学会会長も務めた経歴を持つ第一人者です。

研究内容：多角的な視点からの日本思想史論

子安氏の研究は、日本近世儒学、国学、近代思想と多岐に渡り、独自の視点と深い洞察で知られています。

日本近世儒学

特に荻生徂徠の研究では、フランスの思想家ミシェル・フーコーの言説論を取り入れ、徂徠学を「事件」として捉える斬新な方法論を提示しました。通説を覆す「制作」論の展開は、日本思想史研究に大きな影響を与え、新たな潮流を生み出しました。徂徠の難解な著作『弁名』の解読や、徂徠学と政治思想との関係性についても鋭い分析を行っています。また、伊藤仁斎の研究にも深く関わり、数々の著作を発表しています。

国学

本居宣長の研究では、実証的な文献研究と排外主義的な主張との矛盾を鋭く指摘。加藤周一の議論を踏まえつつも、宣長の「実証性」の背後にあるナショナル・アイデンティティの構築という目的を明らかにしました。『古事記伝』における漢意排除や「神」「天」といった語源研究の恣意性などを分析し、宣長の思想が近代日本に与えた影響を多角的に考察しています。平田篤胤についても、従来のキリスト教や国家神道からの影響という見方に加え、儒教からの系譜を辿るなど、独自の解釈を示しています。

日本近代思想

近代思想の研究では、「日本思想史の問い直し」をテーマに、江戸時代の思想を当時の文脈で読み解く「方法としての江戸」という概念を提唱しました。近代からの視点ではなく、江戸時代の思想をそのまま理解することで、日本近代への新たな理解を促しています。柳田民俗学における「一国史観」批判、和辻哲郎や丸山眞男の思想、さらには明治維新から太平洋戦争に至るまでの過程における国家神道についても、鋭い批判と独自の考察を展開しています。福沢諭吉などの近代思想家についても、近世思想との関連性を踏まえ論じています。また、昭和・大正時代の思想家たちの著作を批評的に論じるなど、近代日本の思想史全体を俯瞰した上で、現代社会への示唆に富む議論を展開しています。

著作と影響

子安氏は多数の著作を発表しており、その中には、単著として『「事件」としての徂徠学』、『本居宣長』、『江戸思想史講義』、『日本近代思想批判』など、多くの重要な研究成果が含まれています。これらの著作は、国内のみならず海外にも翻訳され、高い評価を得ています。思想史研究者や学生から広く参照され、日本思想史研究に多大な貢献をしています。

現代社会への発言

子安氏は、思想史家の立場から現代社会問題にも積極的に発言しています。靖国神社問題、日中関係、そして漢字論など、幅広いテーマについて独自の視点から考察し、活発な議論を展開しています。その発言は、社会に大きな影響を与え続けています。

評価

子安氏の研究は、国内外の研究者から高く評価されています。近世思想研究における「構造」論の代表的な存在として挙げられる一方、近代批判の立場から、丸山眞男らの方法論を批判的に検証した点も高く評価されています。その多角的で斬新な研究は、今後の日本思想史研究に大きな影響を与え続けるものと期待されています。また、海外でも高く評価されており、中国語圏への翻訳も多く出版されています。

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